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夢の外へ10
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(熊谷先生語り)
葵がモデルをすると言い出した。
就職活動が性に合わなくて、随分長い間悩んでいたようだった。少しの間スーツを着て色んな所へ出かけていたが、その度にくたくたになって帰ってくる姿が可哀想に思えてきた。決して自らの為に就職活動をしている訳ではなく、俺が言うからやっているのである。なんとかなるかと思っていたが、なんともならなかった。葵には全く向いていない。完敗だった。
そろそろ解放してやろうと思っていた矢先に、モデルをやると言い出したのである。
高校の同級生である東雲のお兄さんの紹介だそうだ。何度か会ったこともあるが、葵とは違った妖しい美しさを放つ青年であり、緊縛モデルだと聞いていた。葵からしてみると良き年上の友達のようだった。彼の話題もよく出てくる。楽しそうに話す葵を見ているのは好きだった。
だが俺は断じて信用していない。雅くんも、そのカメラマンも、すこぶる怪しい。雑誌に載る予定でもなく、撮り溜めていつか発表するための被写体ってあるものなのか。少しの謝礼が貰えるらしく、何か美味しいものを食べようね、と嬉しそうに笑っていた。
とても晴れた初夏の日曜日、都内の有名な公園へ意気揚々と恋人は出掛けていった。お気に入りのシャツを羽織り、スニーカーを履いて軽やかに歩く葵を、アパートのベランダでタバコを吸いながら眺めていた。ギリギリと歯に力が入り、思わずタバコを噛みちぎりそうになって、慌てて灰皿で揉み消した。
はぁ……落ち着かない。
幸か不幸か、仕事も溜まっておらず、今日は1日フリーである。天気も良くて絶好の行楽日和だ。運動不足の身体を動かすために外出することにした。
あぁ、認めよう。
おれは葵の様子を探りに行く。遠巻きからこっそり見る。そして、確認して問題が無かったら素知らぬ顔をして、その場を去るのだ。何もかもがいかがわし過ぎて、確かめずにはいられなかった。
急いで身支度をして、車に乗り込む。途中、ガソリンスタンドやコンビニへ寄っていたら、待ち合わせの時間を優に過ぎていた。
休日の公園は家族連れやカップルで溢れかえっていた。明るい日差しがたっぷりと降り注ぎ、そよぐ風が気持ちよくて、溜まった疲れが浄化されるようだった。
広い公園の為、葵達を探すのには苦労しそうだ。ここで以前ダウンロードしたGPSアプリが役に立つ。
こんなこそこそするなら、最初から止めればいいと思うかもしれない。あんなにもヤル気になっている葵に水を差すのも躊躇われた、
1番は喧嘩になり、嫌われてしまうのが怖かったからだ。ああ見えて葵は強情で頑固だ。へそを曲げると簡単に元へは戻らない。3年以上も付き合っていて、結局恋人には敵わないのだった。俺が折れるしかない。
濃い緑で覆われたトンネルを抜け、広々とした芝生に出ると、あちこちでレジャーシートにランチを広げる集団が見えた。
俺の視線の先に、見覚えがある黄色いシャツがある。
ベンチに座り、楽しそうに1人のオッサンと談笑している。メガネを掛けた、俺よりも大分年上だけど、葵のお父さんよりは年下のオッサン。ベストとメガネがいかにもなカメラマンに見える。
俺は少し離れたところから見守ろうと、木の陰に隠れた。
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