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夢の外へ11
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(熊谷先生語り)
さっきから20分以上、こうして木陰から覗いている訳だが、2人はずっとベンチで話をしている。葵の表情が遠巻きからだとよく分からず、何を話しているのか皆目検討もつかない。可愛い葵を眼鏡のオッサンは近距離で撮りまくっていた。
近過ぎて、めっちゃくちゃ怪しい。
自分の瞼がピクピクと動くのが分かった。心を落ち着かせるため、タバコに火をつける。数口吸って携帯灰皿に仕舞った。
つまらないな。何が楽しくて恋人がキモいオッサンに写真を撮られている様子を眺めているのか。いいことが1つもない。空しくなってその場を去ろうとした時だった。
「くーまーがーいせーんせー。やっぱり来た。葵君が先生は休みだって言ってたし、もしかしたらなぁと思って。みーたんの散歩にもなるから、一石二鳥で僕も様子見に来た。来て正解。」
「なんだ……島田か……またか。」
「そんなガッカリしないでよ。久しぶりに会ったんじゃない。教え子には優しくしなきゃダメだよ。みーたんが寝たから僕も暫くここにいようっと。」
「赤ちゃんと一緒に帰ればいいのに。」
「相変わらず僕には酷いね。別にいいけどぉ。」
俺の会いたくない生徒ランキング上位常連の島田に声を掛けられた。奴はピンクのベビーカーを押している。葵の言う通り、喜んで子守りをやっているようだった。しかし、こいつが保育士になろうとしているとは、教育上いかがなものだろうか。少なくとも俺に子供がいたら、島田には面倒を見て欲しくない。
高校生の時『なんで学校でセックスをしてはいけないの?みんなしてるのにー』と全く悪びれずに文句を言われたことを思い出した。ピッチな島田に子供と仲良くなるスキルはあるのだろうか。こいつに常識というものが備わっていない。
「なんかあの人、気持ち悪い。葵君を舐めるように見てる。」
さわさわと緑を揺らす爽やかな風が吹き抜けた。ベビーカー内の彼女は気持ち良さそうに寝ている。
「だろ?お前もそう思うか。さっきからあの光景を見ているとイライラしてしょうがないんだ。」
「でもね、あのカメラマンさん、青柳さんって言うらしいんだけど、奥さんも子供もいるって。雅さん曰く、ごくごく普通のおじさんだけど、好みのタイプに出会うと我を忘れるらしいって。」
奥さんも子供もいるからこそ、息抜きでやることがとんでもないんだ。大体趣味で男の子を撮る行為が似合う人種と変態行為に見える人種がある。これは間違いなく後者だ。
「あいつは変態だな……やめさせたい。今すぐに中断させて連れて帰りたい。」
「そんなことしたら葵君が激怒するよ。」
「………ふんっ、分かってる。」
だから遠巻きに見てるんだ。無意識にタバコへ手がいったが、赤ちゃんがいることに気づいて引っ込めた。
「大体、就活に向いてない葵君に無理やりやらせるからだよ。見ていてホントに可哀想だった。」
「分かってたけど、そんなに……ダメだったか?人生経験として、誰もが通過する道だろう。」
「ダメだったね。常に怯えてるようで、企業の人の話も上の空で全く聞いてなかった。興味無いのが丸わかり。ただね、葵君のスーツ姿は凄く良かった。何かの企画モノのAVみたいな場違い感というか、エロかったよぉ〜。脱がされる前提で着てる感じ?みたいな。あれで3回は抜けるね。分かる人には分かってたと思う。眼福だったなー。」
思っていたより葵の態度が酷かったようだ。スーツ姿がエロいと、俺も密かに感じていたから、島田に言い当てられたようで内心焦る。そんな目で見てしまった自分を恥じた。ごめん、葵よ。全てがそれではないんだ。
「お前な、人の恋人を企画モノAVとか生々しい話もするな。そんなことばっかり考えてたら保育士どころか子供も寄ってこないだろうよ。あーヤダヤダ。こんなむっつりスケベな先生は嫌だなー。荒れてた高校時代を無しにはできないんだぞ。」
一瞬島田の顔が曇り、俺の勝ちかと思われたが、特に気にしない程で彼はにやりと笑った。
「別にいいの。子供達には自由に人を好きになってもらいたいし、欲望には素直に育って欲しい。その中で善悪をきっちり判断できるスキルを身につけて欲しいんだ。生徒に手を出した人に説教されたく無いもんねー。倫理違反はそっちじゃん。」
むかつく。こいつは本当に負けず嫌いで、口が達者だ。おまけに根が強い性格で、簡単なことじゃへこたれない。葵に島田並みの図太さが少しでもあれば、もっと生きやすいかったかもしれない。
ムカムカしながら葵に視線を戻すと、ベンチには誰もいなかった。島田に気を取られて彼らを見失ってしまった。
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