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夢の外へ14
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(葵語り)
俺が大きな声を出すと、青柳さんは我に返ったように静止した。縋るような目つきで俺のことを見て、小さく『すまない』と呟いて、しゅんと頭を垂れた。
オッサンのクセに打たれ弱い。怖かったから黙って耐えましたとか、そんなシチュエーションを想像していたのだろうか。どう見たって俺は男だし、セクハラオヤジぐらい対処できるよ。か弱くはない。
「謝ればいいもんじゃないって……本当は帰りたいくらいです。でも雅さんに紹介してもらった仕事だから、この公園までは撮っても構いません。」
俺の進路を心配して、気分転換に紹介してくれたんだ。引き受けたからにはちゃんとやる。
「いいの?葵君。ついつい、自分の好きな子には見境なく撮ってしまう癖が出てしまった。」
「その癖は……治した方がいいんじゃないですかね。」
「もうこの年になったら治らないよ。雅君には沢山のお気に入りが付いているから、全然近づけないし、僕にも誰か欲しかったんだ。原石を見つけたと思ったんだけどな。本当に葵君は撮られる気ない?」
「すみません。全く無いです。セクハラ云々よりも、撮られることに抵抗がありすぎました。もう二度とやりたくないですね。」
「そうか。本当に本当に残念だ。何度でも言いたいくらい残念だ。」
「本当の本当に2度とやりたくないです。」
青柳のオッサンも、色々と悩んでいることはあるらしいが、俺にはどうにも無理だ。
こうして俺のモデルのような怪しいバイトは終了した。
次は先生とプライベートで公園へ行こうと思った。俺の毎日は先生ありきなので、やっぱり先生の傍にずっといたい。仕事はアルバイト程度でいいのにな、と心配している親や先生には口が裂けても言えなかった。今と同じCaféRでのバイト生活で十分だ。
この際、どこでもいいから就職して、いけるとこまで頑張ってみて、ダメなら辞めよう。そしたら周りは何も口出ししないだろう、と無い知恵を絞って考えていた。周りの大人は、やりもしないで諦める俺に意見をしているのだ。自分のことは自分が一番よく理解している。一般企業へ就職するなんて自分向きではないと明らかに分かっていた。
周りを納得させるには、そうせざるを得ないのだ。
今回のことで決心がついた。就職をして、サラリーマンになろう。
公園を出ると、申し合わせたように先生と島田に会った。先生の顔を見たらなんだかホッとして、思わず手を握ってしまう。あたたかい掌に触れていると、この人ありきな自分の人生が愛しくて、涙が出そうになる。
「どうした?あのエロオヤジに何かされたか?」
「え、見てたの?」
「やっぱり何かされたんだ。教えてよー。雅さんに言いつけて、怒ってもらえばいいよ。」
ベビーカーを押している島田がぴょんぴょんと跳ねた。すると、座っている雅ちゃんが少し浮いて、キャッキャと喜んでいる。
「別に……何にも。少々おかしな人ではあったけど、悪くはなかったよ。モデルは俺に向いてなかった。」
「本当は何かされたんじゃない?僕は出来上がった写真を見てみたいな。」
「うーん。見なくてもいいかな。興味ないから。見たけりゃ島田から連絡すればいい。俺はパス。」
「僕だってあの人に1人で会いに行く勇気がないよ。ねえ、熊谷先生は見たくない?」
先生は何か言いたそうだったけど、ずっと掌をもみもみしている俺を見て優しく笑い、頭を撫でてくれた。
「葵……お疲れ様。帰ろっか。」
「うん。」
「え、え、無視なの?僕は無視されたの??葵君の理解者ぶりやがって……僕の方が絶対に分かってるのに……」
ブツブツと島田が怒っているのを尻目に先生は俺の手を取った。
「島田。俺たちは帰るから、お前も帰れ。雅ちゃんをあまり連れまわすなよ。」
「島田、また週明けに大学でね。みやびちゃんもバイバイ。」
俺の一番の理解者は先生だと思う。誰が何と言おうと、先生が一番だ。
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