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夢の外へ16
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(葵語り)
その男性は、うつ伏せで床に倒れていた。
長めの茶色い髪で表情は見えないが、ゆるく着たサマーニット地のベストから見える腕が白くて細い。ひ弱そうだった。
雑貨屋さんだから、普段は運動しないのかな。俺も人のことは言えないなと無意識に自分の二の腕を握っていた。
こんな状況に立ち尽くして手も足も出ない俺とは対照的に、先生は素早くレジ側に回り
声がけをしていた。優しく背中を摩ると、その人は小さい声を上げて唸り声が聞こえてほっと胸を撫で下ろした。良かった。生きてる。
「葵、タオル持ってる?」
「ん、あるよ。ちょっと待って。」
リュックからフェイスタオルを出して渡すと、もぞもぞと動き始めたその人の枕がわりに頭下へ差し込んだ。
何か飲みたいと呟いたので、未開封のりんごジュースを差し出すと、先生に起こされながら一気に飲み干した。どんどん顔に生気が宿ってくる。年齢は先生と同じくらいか、それより上で、細いけれど目鼻立ちがくっきりとした男らしい人だ。
「そ、そんなに急に飲むと……」
「プハァー、ありがとうございます。すみません、多分、低血糖と貧血のダブルかと……昨日からなにも食べてなくて……ってお客さんですよね。あああっ、すみませんっ……いでぇっ……つぅ……」
急に立ち上がろうとして、頭を低い棚にぶつけていた。先生がすぐに駆け寄って身体を支えた。
「暫く寝ていた方がいいかと思いますよ。それか病院に行った方が。」
「いやいや、今日は大事な荷物が届くんで、店を閉めることができないんです。こうしてお客さんも来てくれてる訳ですから、なんとかしないと……うぅぅ……」
この店はあまりお客さんが来ないんだと、店主さんが呟いた。レジ近くには存在感を示しいる大きなパキラがある。パキラはcaféRでも育てていたが、病気になってすぐ枯れてしまった。植物とは相性があり、こういうのは才能らしい。俺の背より高いパキラを見上げて、店内を見回してみる。ピカピカに磨き上げられた床も、所々に並べてある観葉植物も、売り物の雑貨や食器も、選んだ人の愛情を感じた。
何より、女性が好きな雑貨店みたいにごちゃごちゃが無くスッキリしている。所狭しと飾られている細かい小物よりも、存在感を放つ物達がとても落ち着くのだった。
俺は、この空間がものすごく好きかもしれない。流れてる空気に懐かしささえ感じる。
すると、宅急便屋さんが台車に乗せた大きな荷物を持って来た。代わりに受け取ると、大きな箱を4箱ほど置いて帰っていく。
「すみません、ちょっと起こしてもらっていいですか……あの中に、今日取りに来るお客さんの取り寄せた商品が入っているんですよ。急いで確認して連絡しないと……」
店主さんは無理に立とうとしてふらふらとよろける。どうにも動くのは無理だろう。困り顔の先生がこちらを向いて言った。
「いや、今は寝ていたほうがいいですって。この子に開けさせますから、あなたは指示だけしてください。それなら安心でしょう。」
「そんな……介抱していただいた上に、申し訳ない。だけど、身体が動きそうにないので、できればお願いしたい……うぅ……情けない。」
「たまたま居合わせたのも何かの縁ですから。葵、開けて見てくれるか?」
「…………ん、分かった。」
微笑んだ先生が俺にアイコンタクトをした。何故いきなりこの人の手伝いを申し出たのかは疑問だが、誰かが取り寄せまでして欲しかった商品が気になったので、言われた通りに箱へ手をかけた。
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