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夢の外へ15
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(葵語り)
駐車場までは距離があった。
この公園界隈は服屋さんや雑貨屋などが並び、沢山の買い物客で賑わっている。CaféRのある駅裏とは雰囲気が違うが、物静かな佇まいがお洒落だなとオープンテラスのお客さんを見ながら感心していた。お店それぞれの個性が強くて、インテリアにも凝っている。
俺でも使えそうなシンプルな雑貨もあり、何か買おうかなと店を物色していた時だった。
さっき言おうと思ったんだけど……と先生が切り出した。
「島田がいたから控えてたんだが、無理して就職しなくてもいいよ。俺の稼ぎで葵の面倒ぐらい見れる。本当に主夫になるなら、伊藤家へ挨拶に行く。もう就職活動しなくてもいいから、残りの大学生活を楽しんで過ごそうか。」
「なっ……んで、今それを……」
先生は、島田から俺が就職活動で苦戦していたことを聞き、反省したそうだ。教師としてのクセが出て、世間一般の流れに乗せようとした、ときまり悪そうにしていた。
さっき公園でようやく就職する気になったのにタイミングが悪い。折角の決意が揺らいでしまうじゃないか。どうして今それを言うのだろうか。
「俺ね、モデルやってから色々思う所があって、就職しようと決めたばかりなんだけど。」
「えっ、そうなの。」
「だけど、先生がやらなくていいって言うなら、やめる。楽だもん。」
「ちょ、ちょっと待て。俺も全力でサポートするから、やれるところまでやってみよう。出来なかったら主夫しよう。折角の決意が無駄になる。」
「先生が応援してくれるなら……頑張ってみようかな。」
「……じゃあ、頑張ろうな。」
「うん。心配しないでよ。やるからさ。」
俺の気が変わらないうちにと、焦っている先生を見ているのが面白かった。結局俺たちは互いのことを考えた結論を出していた。
好きな人が俺の為を思ってくれている。それだけで幸せだった。
話をしているうちに、一軒の雑貨屋が目に止まった。少し離れた裏路地にあり、入り口にはクラシックな自転車が置いてあった。
ドアノブには『open』と書かれたボードがかかっている。温かな木の造りの窓枠を覗くと、シンプルなガラス食器が並んでいた。
先生の了解を取って、店内に入った。女の子が好きそうな可愛い雑貨ではなく、機能性を重視したものが並んでいる。以前京都で買ったマグカップを割ってしまったので、代わりが欲しかった。もうすぐ夏が来るし、ガラスのタンブラーをペアで揃えたい。
店内には俺たちの他に誰もいなかった。店員さんすら気配を感じない。奥で何か作業をしているのだろうと思って、気にせず見て回ることにした。
やけに落ち着くなと思ったら、ここの雑貨達は色が少ない。すべて単色か2~3色でできている。がちゃがちゃ主張する原色が苦手な俺には心地よい空間だった。
気になるガラス製のタンブラーが1つしか出ていなかったため、店内に在庫が無いか聞いてみようとさらに奥へ進んだ時だった。
「ひぃっ、せんせ……人が、倒れてる……」
「なんだって……見せてみろ……あの、大丈夫ですか?おーいおーい。」
レジの向こうで、男の人が倒れていた。
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