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夢の外へ17
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(葵語り)
静な空間で、2人の大人から視線を浴びていた。
何を考えているのか分からない先生と、かなり消耗している店主さんは、黙って俺の作業を見守っている。
だって、先生は全然手伝ってくれない。不安な視線を送っても優しく笑うだけで思惑が読めない。裏がある時は最後まで考えを明かしてくれない。そういう所も好きなんだけど、綱渡りみたいで怖い。
ダンボールを開けると、沢山の小さな箱が出てきた。店主さんからレジ横から注文FAXの控えを出して、それと照合するように言われる。一つ一つの箱を開けて、そして商品に不良が無いかを確認する。
グラスではなくタンブラーと呼ぶそうで、どっしりと重いものや、驚くほど軽いものまで様々な種類があった。透明のガラスが光に反射してキラキラと輝き、水を入れたら違う面を見せるだろうなと、くるくると回して眺めた。ずっと見ていたい。欲しいなぁ。お家に来てくれないかなぁ。
「それはね、毎年この時期に限定で発売するタンブラーで、分けてもらえる数が少ないから、予約で売り切れるんだ。確か今年は5個だったはず。」
「5個……あります。」
「よかった。確認ができたら、予約の方に連絡をしよう。」
時間をかけて1個づつ照合する。手分けしながらやったら早く終わるのにと思ったけど、宝物を開けるような作業は楽しかった。終盤に差し掛かったところで、店主さんが近づいてきた。さっきよりは幾分元気になったようだ。
「本当に助かりました。回復してきたので、続きはやります。君はこういう仕事をしているのかな。物を扱うのが上手だね。なんというか、大切にしているのが伝わってくるよ。今まで、注意しても雑に扱う人が多くて、あまりに悲しくて自分1人でやってたんだけど、君みたいな人がいるといいのになぁ……と思った。うちで働いてみない?バイトでもいいから、時々来てくれないかな。それだけでも本当に助かる。」
「へぇっ……えぇと……あの……」
チラリと先生を見ると、さっきと同じ笑顔で返してくれた。
実を言うと、こういう納品作業や、地味に確認する仕事は嫌いではない。寧ろずっとやっていたい。好きな雑貨なら尚更触っていたかった。カフェのバイトもやり甲斐があるけど、初めて来た場所とは思えないほど、しっくり馴染んだのは事実だ。
「やってみたらいいじゃん。葵に向いていると思うよ。」
「本当?俺もやってみたいと思った。だけど、カフェのバイトもあるし。」
「それは村瀬君に言って減らして貰えばいい。何とでもなるよ。島田が代わりに働くって。葵が頼んだら快諾するだろうよ。」
「ん……そうだね。」
caféRはなんとかなりそうだったので、俺は店長さんに向き直し、恥ずかしながら頭を下げた。
「あ、あの……俺でよければお願いします。」
「自己紹介がまだだったね。俺は新井といいます。ここの店長です。葵君……でいいのかな。いつでもいいから履歴書を持って来てくれないかな。形式上、面接もしたいんだ。そこでゆっくり話そう。」
「はい。」
そして、新井さんは先生と俺を交互に見て、お決まりの『お二人は兄弟ですか?』と質問をしたのだった。
歳が離れているので、友達にも見えないし、顔は全く似てない。かと言って普通の考えでは恋人の発想はない。思い浮かんでも、黙っているだろう。
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