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熊谷家の人々9
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(熊谷先生語り)
主治医からの説明のため、和樹と診察室へ向かう。その途中に、親父が昼食から戻って来た。手には母さんの為に買ったのだろう、飲み物が入っているビニール袋をぶら下げていた。
まっすぐに病室へ入ろうとしたので、慌てて止める。今はマズイ。葵と母さんの暖和な雰囲気を崩して欲しくない。
怪訝そうな顔した親父を和樹が診察室へ引っ張って行った。心配になって病室を覗くと、葵の笑顔が確認できたので、ホッとする。
母さんと上手く話ができてるみたいでよかった。落ち着かない俺を見た和樹が苦笑していたけど、無視する。
俺の両親は駆け落ち同然で結婚した。母さんは旧家の令嬢で、許婚と結婚するのが嫌で家を飛び出し、行き着いた先がこの港町だった。
どこをどう間違ってあんな頑固親父を好きになれたのか不明だが、2人は恋に落ちた。
間も無く俺を妊娠し、母さんは実家から勘当される。詳細は教えてくれないが、当時はかなり大変だったらしい。
そんな中、2人を助けたのが今は亡きばあちゃんだ。そして母さんは俺を17歳で産んだ。
若くして社会にも出ず、いきなり母親になったので母さんはちょっとズレている。しかもお嬢様育ちだから尚更、一般常識や普通というものには縁遠かった。俺も和樹も独特な感性の中で育てられた。
漁師で自分よがりな親父は母さんにだけは頭が上がらない。普段ふわふわしてても、俺や親父以上に頑固な母さんは、これだと決めたことは絶対に曲げなかった。俺が教師になると決めた時も母さんが全力でサポートしてくれた。漁師を継いで欲しいと願う親父は俺と今でも仲が悪い。
医師の説明は淡々と終了した。トーンの緩い声に、聞いているこっちが眠くなるくらいだった。母さんは暫く入院するらしい。
親父が寂しがるなと思った。時々実家に帰って様子を見ないといけない。我が家は母さんが居ないと灯りが消えたように暗くなるのだ。
病室へ戻ると、葵と母さんは会話に花が咲き、仲良く笑い合っている。ちらっと葵に視線を送ると、はにかんだ後、親父を見て固まっていた。
「春子、この方は……?」
「親父……あのさ、こいつは……」
「あ、貴明さん。誰だと思う?なんと、裕樹の恋人よ。伊藤葵君。もう、私が夢中になりそうなくらい真っ直ぐで可愛いの。私のお嫁さんにしたいくらい。ふふふ。」
俺が『元教え子』と説明しようとしたら、母さんが被せるように言った。
葵が俺の恋人とか、親父には絶対に知られたくなかった。少なくとも今は言うタイミングでは無い。
母さんの天然にも程がある。
いきなりの紹介に、葵も開いた口が塞がらないようだ。
「は?恋人ってこの子は男の子じゃないか。冗談だろう。母さん、何言ってんだ。えっ、嘘じゃないって?裕樹……本当なのか?」
「え……まぁ……嘘ではないかな。」
目を見開いた親父が俺と葵を交互に見た。
その瞳には『信じられない』としっかり記されていた。
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