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act.1
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その日は、俺の誕生日だった。
可愛い妹達から腕時計。弟達からは新しい眼鏡。ケーキに、デコレーションされた部屋は、二十歳になっても気恥ずかしいとは思うが、それでもやっぱり嬉しいかな、なんて。
二十本の蝋燭も、四人のワクワクした顔も、嬉しそうに微笑む両親も、それはとても楽しそうな顔だった事は忘れない。
・・・あいつさえ、来なければ。
「うーい、くんっ、あっそびましょー」
「・・・お兄ちゃん」
「うーーーいっくん!さっさと、出て来いや!あぁ!?」
「・・・ごめんね、折角用意してくれたのに、ちょっと外に出てくるね」
ドカバカと、酷い音に俺はちょっとだけため息を吐いた。家族はその不審な声と音に不安そうな顔を浮かべた。一番小さな弟の奈緒が泣き出しそうな顔をしたので、よしよしと撫でてやる。
更に大きな声で俺を呼び、ピンポンピンポポンと連打するインターホン。
「・・・・・・近所迷惑だから、ね?」
「うい君、てめえ俺様を待たすとかいい度胸してんじゃねえか、いつからそんなに偉そうになっ」
「どうした? 連絡もしないで、携帯は?」
「・・・無くした! ついでに金もねえ!」
「ご飯は? ちゃんと食べれたの?」
「食えるわけねーだろうが! じゃなきゃこんなトコに来るわけねーだろうが! あ?」
「ご飯食べてく?」
「わりーなっ、いつも!」
勝手知ったるなんとやら、凶悪な笑顔を浮かべて、ズカズカと玄関を跨ぐこの男は香西玲王。自称王様、またの名をクズとか、人生のゴミ箱とか呼ばれている。
なんでその男が、俺の家に来たのかという話は長いので割愛。
とにかく男は、こんな感じでよく家にフラフラとやって来てはご飯と寝床にありつけ、さも当たり前のように俺をこき使う。
暴力的な何かだったり、弱味でも握られたのでは?という憶測もあるらしいが、それは否定しよう。
特に弱味などないし、口調はよろしくはないが、殴られた事などない。
ではなぜ、巷で有名なクズの面倒を見ているのかと言うと、それはただ単に俺が面倒見いいからという理由だけである。
困ってる人を助けるのは当たり前だし、タカられているカモの一人という事もよく熟知している。なんせ、香西は見目だけはイイ男だ。俺が面倒を見なくても、その辺の女さえ引っ掛ければご飯にだって、寝床にだってありつける。
そんな香西は、我が物顏で俺が出すご飯をペロリと食べた。
もちろん甘いものは嫌いだから目の前のケーキには指を出さない。
「ン?お前なに、たんじょーびとか祝ってんの?」
「うん、俺今日で二十歳だしね」
「はっずかしーヤツ!!」
「ちょっと照れ臭いけど、幾つになっても祝って貰えるのは嬉しいと思うよ」
「けっ、なにーが家族だつーの、だーから俺様みてえなやつに目付けられんだつーの、バーカ」
ソファに座りながら、恐怖に怯える両親と兄妹達は居間の襖の隙間からこちらをこそこそと見ている。
みんな好奇心だけは強いからなぁなんて、他人事に思い、また新たにお茶碗にご飯をよそって行く。
それを当たり前に受け取って、パクパクと胃袋に詰められる量はモデル事務所に所属している男とは思えない量だ。
今度から栄養バランスも気を付けなきゃと思う俺は、多分馬鹿だ。
「香西も祝ってもらったらきっと幸せになれるよ」
「めでてーヤツ!あ、今日とまっから!」
「分かった、じゃ布団敷いておく」
「おーおー敷け敷け、ってお前が床な!」
「はいはい、もうお風呂の準備しておこうか?明日も学校行ったら、すぐ仕事なんだろ?」
「うるせえ、てめーはオカンか?あ?」
至極煩わしそうに言うけど、目線は盛られたおかずと、盛ったご飯を行き来してばかり。
カレンダーで日付を確認しながら、そう聞けば、お弁当を付けた香西は、うぜえと呟いた。
「どうする?」
「まだ飯食う!」
「はいはい」
「はいは、一回だ!」
お弁当付けて何か言われても、この男は小学生以下にしか見えない。
頬と顎に付いた、ご飯粒をつまんで口にすると、明日のお弁当の用意をしなくっちゃと思い出し、キッチンへと移動した。
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