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母と狗(4)
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キスが終われば、目尻から溢れる涙も口端から滴る唾液も舐められ、吉春は乱れた服を直している。赤くなる顔を俯かせ、ティッシュで軽く手を拭く次郎を横目で眺めながら。
「……次郎……」
「はい」
「変態。ここ病院だろ」
「はい。知っていますよ」
「もういい。喉渇いたからなんか買ってこい。あと、手洗えよ」
「はい」
にこにこと笑う次郎に舌を打ちドアを指す。次郎はゴミ箱にティッシュを捨てたのち、吉春にキスをして部屋をあとにした。
残る吉春は窓の外から見える景色に瞳を閉じる。母親が消えたのは、木々が枯れて冷たい風が吹く季節だった。そう、いまの時期のような。そして、その姿は朧気で儚い。
「――母さん」
どこにいるのか。なぜ自分を置いていったのか。邪魔になったのか。だから置いていかれたのだろうか。
――もしもそれが正解なら、どうしたらいいだろう。
蹲(うずくま)る吉春に伸びた手が、その髪に触れる。滑らせた手で髪の先を掬い、そこに唇を押し当てたのは。
「私の可愛い吉春」
「次郎……、早いな」
「母に――晴子(はるこ)に会いたいですか?」
「会えるの、か……?」
「明日」と紡いだ次郎は、顔を上げた吉春の額にキスをして、買ってきたジュースをサイドテーブルに置く。
「ですから、泣かないでください。私の可愛い可愛い吉春」
「こ、これはお前が悪いんだよ!」
「はい」
拭う手を取りながら涙を舐めて、次郎は小さく笑った。
□■□■
吉春はその家の前で蒼白する。この家は地主である『九白』の家だ。『九白』に嫌われては、この土地で生きていくのは難しい。
しかし吉春は『九白』に縁はない。同じ名字だが、それは佐藤やら鈴木やらと同じことだろうと思っていたのだ。だから一々機嫌を窺うことはないが嫌われたくはないし、自分には一生用はないのに、なぜ次郎は容易く門の向こうに行くのだろうか。
玄関もズカズカと入りやしないかと心配して、吉春は次郎の手を引いた。
「じ、次郎!」
「はい?」
「この家と母さんとなんの関係があるんだ?」
「九白晴子――と言えば、解ってもらえますか?」
「く、しろ……、はるこ」
もしかしなくとも、母はこの家の生まれなのか。なら、次郎とこの家の関係は――『狗神』と『気に入られた家』。栄えるのも道理で、母との関係は『伴侶』ということだろう。
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