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俯く。
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「ちっ、違うんです⋯⋯コケただけで⋯」
保健室に担架で盛大に運ばれた後、担任と保健医に呆れられながら両手で顔を覆い隠すキモ川。
「ったく、てっきり具合が悪くなって倒れたのかと思ったじゃないか。」
「ごめんなさい⋯」
コケた際にできた怪我の手当が終わり、担任がくるりと俺の方を向く。
「で?上谷はなんでここに居るんだ。まだ授業中だろ。」
「は〜??俺保健係だから心配して見に来てやったんだけど」
「そうだったか?なら、下川はお前に任せた。」
ま、保健係ってのは嘘だけどこれでサボれるんなら勝ち組だな。
「おいキモ川、教室戻って着替えんぞ」
「えっ」
「ジャージのままだったら寒いだろうが」
「わ、わかった」
いつも通り、キモ川は俺にビクビクしながら俺のあとをついてくる。
いつも通りじゃないのは俺の方で、普段ならキモ川など気にもとめず1人でスタスタ歩くのだが。
あろう事かこの俺が無意識にも後ろにいるキモ川の方を振り向き安否を確認しながら歩調を合わせているこの謎。
「トロトロ歩くな。きめぇ」
「ひっ!!ごめんなさい⋯」
足元を見ると、怪我んとこから血が垂れてて。見るからに痛そうだったのだがキモいと言われ早足になるキモ川の腕を掴みちょうど近くにあったトイレに連れ込む。
個室が空いていたので、そこのトイレットペーパーを手に巻きとりあえず「これで血ィ拭け」と手渡す。
すると、キモ川はよっぽど痛かったのかゆっくり便座に腰掛ける。新しい絆創膏取りに行かねぇとなんて面倒なことを考えていると、トイレの外から足音が聞こえた。
この状況。
2人で個室に入っているのを見られるのは何かとまずいんじゃね?と思った俺は勢いよく個室の戸を閉め鍵をかけたのだった。
冷静に考えれば俺一人が出ていけばよかったのだが、まぁやり過ごせるかと思ったのが運の尽きである。
焦った俺を見て頭にハテナマークを浮かべるキモ川に、喋んなとジェスチャーで伝える。
外から聞こえる喋り声に、ようやく状況が飲み込めたようだ。
「つーかさ、下川ドジりすぎじゃね」
「それな。見てて可哀想になってくるわ」
よりによって内容がコイツかよ。てか授業中に連れションしてんじゃねぇ暇人共が。
「下川さ、上谷になんて呼ばれてるか知ってる?」
「え、なに?なんて呼ばれてんの」
小便中によく喋んなこいつら。
キモ川の話題とかどんだけ暇なんだよ。
「" キモ川 " だってよ。」
「ははっ。なにそれウケんだけど」
ちらりと、隣に目をやる。
傷口にトイレットペーパーをあて、1ミリも動かず、俯いてただずっと会話に耳を傾けている。
「オドオドしてて気持ち悪いからじゃね?」
メガネの向こうで、長いまつ毛が見えた。
眉間に力がこもる。同時に、ぎゅっ、と閉じるまぶた。
「確かに、俺もこの前話しかけたらー⋯」
話終わる前に、便座の水を流した。ちょうど声は水の音で掻き消され、外にいた奴らも個室に人が居たのかと気づくと用を済ませそそくさと出ていった。
俺は、扉にもたれてキモ川の方に体を向けた。
「⋯血ぃ止まったな」
「う、ん」
「まだ痛むか」
「⋯うん」
すん、と鼻をすする音。
顔は俯いたまま。
「⋯先に出んぞ。お前は好きにしろ」
「⋯うん」
なんて、言えばよかったのか。
あ、それとも普通に名前でも呼べばよかったのか。
まあいいか。
別に俺が気にするような事じゃねえし。
⋯うん。
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