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「ちょっ、なになにっ、うわっ!?」
ドタドタッと音を立て、どこかのマンションの一室に連れてこられ、そのまま風呂場へと投げ込まれて、俺を1人残したままバタンと扉を閉められてしまった。
「えー………」
唖然となるのは仕方がないと思う。
「なぁおい!どうすればいいんだよ!?」
そこにいてくれればいいが、なるべく聞こえるように大きな声をはりあげる。
「風呂」
「……だから…」
よかった、近くにいたらしい。
扉のすぐ向こう側で声がして胸をなでおろす。
「着替え置いとくから」
「入れってこと?」
「あぁ」
だったらそういってほしい。
濡れていたから風呂に入れということだろうか。
ってここは、あいつの家なのか?
……惜しい。
あの顔なら日本家屋とか似合っただろうに。
ここは甘えておこうと服を脱ぎシャワーを出した。
頭からお湯をかぶりながら、何しているのだと自分を責める。
「薫………」
『とらないで』
まただ。
こんなの知らないのに。
『これ以上、とっていかないで』
薫の記憶なのだろうか。
ずっと見てきた薫の記憶なのだろうか。
その中の少年がないているから、その中の薫が泣いているから、俺も泣きそうになるのだろうか。
ガチャリと扉を開けて、顔をのぞかせる。
「あの、えっと、ありがとう風呂」
ソファで本を読んでいたソイツは俺を見た瞬間、すっと立って寄ってきて、
「……」
「わっ」
ガシッと顔を両手で包み込んだ。
「なに、」
「風邪」
「うん?」
「ひくなと言ったろ」
え、俺が?いつ言った?
初めて会った、寝ていた時だろうか。
言ったような気もする。
「と、とりあえず離してくれ」
がっしりと包まれた頬は寄って口も突き出て、きっとさらに不細工なのだろう。
ペシペシっと腕を叩くと、普通に離れていった。
「いや、ちょっとしくじっちゃってさ。
車から跳ねた水たまりの水がかかっちゃって」
ははと笑うと、訝しげに視線を送られる。
そりゃそうだ。
ここ最近雨なんて降っておらず、水たまりなんてできていないのだから。
もっと理屈の通るものを考えるべきだった。
いたたまれなくなって、下を向く。
「本当、ありがとな。服は大学で返すから」
何かを言われる前にと、来ていた服も抱えてマンションを飛び出した。
その後気づいたのは、
「しまった」
名前を聞き忘れたこと。
助けてもらったのに、名前も知らないしお礼もしてないしなんて恩知らずな。
大学で会えるだろうと、そこはポジティブに考えた。
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