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優しさは時に残酷です
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コツ、と音がしたと思って目を開くと、神凪が倉庫に足を踏み入れていた。
ーう、そ。
コツ、コツと。
遅いわけでも、速いわけでもない。
ただいつものように、歩いてくる。
広くはない倉庫なのだから、すぐに俺の前きたどり着き止まる。
見上げると、神凪の鋭い視線とぶつかる。
ー嫌だ。
嫌だ、神凪。
お前にだけは、こんなことして欲しくない。
見るな、見るなよ神凪。
「神凪、」
何もする気がないのなら、いや、何かする気なら、出ていって欲しい。
見捨てられたほうがまだマシだ。
ギュッと目を瞑ると、腕を強く引かれた感覚。
それに驚いて、また目を開けた。
俺の腕を掴んでいるのは、神凪。
「悪いけど、こいつに用があるから」
そう言って、腕を押さえていた奴の手を払い、俺を立たせた。
「えー、俺らが先なんだけど神凪。
用があるなら、後にしてくんない?」
「……こんなことしてる暇があれば咲田薫の見舞いにでも行ってきたらどうだ」
「えっ、薫君風邪なの!?」
ざわ、と男たちが揺れて、慌てて飛び出していった。
「また今度遊ぼうぜ、亜沙樹くーん!」
そんな捨台詞まで吐きながら。
視線を感じて神凪を見れば、俺をじっと見ていた。
というより、俺の……腹?
「服」
「あ、」
アイツらにさっきまくられた服はそのままで、腹が見えている状態だった。
それを急いで降ろし、倉庫を出た神凪の後を追う。
「あ、の、神凪」
「……」
視線だけ、俺に向く。
「ありがとう」
用があったというのは嘘なのだろう。
「……花潰した分とはちみつの分」
それは、借りを返したということだろうか。
むしろ俺なんて、この前の風呂だって世話になってるのに。
助けてくれたのは、純粋に嬉しかった。
「何も、聞かねぇの?」
ただ、何も聞かないのが、誤解していると怖かった。
違うと言いたくて、だから聞いて欲しくて。
「別に。人の趣味にとやかく言う気はない」
ほら、誤解してる。
「ただ、本気で嫌そうだったから」
邪魔した、と言う。
違う、違うんだよ神凪。
お前は邪魔したんじゃなくて、助けてくれたんだよ。
「あのな、」
ピコンと、音がなった。
俺のじゃないからきっと、神凪の携帯だろう。
取れよ、と目で促すと、神凪は携帯を開いた。
「……やっぱ、悪かったか」
「何が?」
見せられたのは、メール画面。
"お前暇ならあさぎ君の相手してやれば?w"
送り主の名前は知らないが、きっとさっきのアイツだろう。
またピコン、と今度は画像が送られてきた。
それは、さっきの俺が載っているサイトの写メ。
"襲われたいらしいからw"
なんてやつだ。
1番知られたくない相手に、知られてしまった。
「……おまえ…」
「違うっ!」
メールまでするなら、アイツとは友達なのだろうか。
ならその友達と、つい最近名前を知った俺とどっちを信じるだろうか。
神凪の顔を見たくなくて、見れなくて、下を向く。
「違う、違うんだ神凪。俺じゃない」
「……」
お前の沈黙が、怖い。
焦りと恐怖で目の前がぐるぐると回る。
「俺じゃないんだ、本当に、俺じゃない」
「だから、人の趣味には…」
「違うんだって!」
ほらやっぱり。
信じてなんて、くれないから。
信じて、なんてそんな相手を束縛するようなことも言えないし。
「とりあえず、講義遅れるだろ」
そうだ。
もうあと数分もしないうちに俺の講義が始まる。
けれど、こんな状態でいっても、神凪はもっと誤解するだろう。
「じゃあな」
「まっ、」
そう言って、後ろを向いた神凪に手を伸ばす。
けれどその手は神凪に届くことはなくて、グラリと大きく揺れた視界に、あぁと、思った。
ー倒れる
どこかそう冷静に見ている自分。
ドサリ、と今日二回めの体を打ち付ける感覚がどこか遠くで感じた。
本当、
「…さい、あくだ……」
薄れる意識の中で、「亜沙樹!」と誰かが大声で呼ぶ声がした。
ー神凪じゃないな。
だって神凪は、あんな大きな声出さないから。
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