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記憶は何処へ
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「あさにぃ、ねぇあさにぃってば!」
「あ、ごめん薫。どうした?」
「いや、水出しっぱなしだから、」
神凪が出て行った後は薫はいつも通りだった。
それが強がりなのか、普通なのかはわからないけれど。
俺はそんな薫には会わせる顔がなかった。
気づいてしまった事実に、罪悪感が膨らむことが止まらない。
「ね、気になるの?」
「、何が…」
「颯佑のコト」
気になる?
………気になるさ。どうしてかあの無愛想な男のことが頭から離れなくて困っているんだ。
「いいや」
けどそれは薫に言うべきことじゃない。
ねぇ、と座っていた俺の横に薫もすり寄り、俺の肩に頭を乗せた。
「あさにぃにはね、僕がいるでしょ?」
「………あぁ」
「誰もいらないの」
「そうだな」
サラリと肩に乗る薫のサラサラな金髪を撫でる。
そうだ。
俺の世界はたった2人だけ。
俺と、薫の2人だけなのだ。
「裏切られた颯佑の事なんて忘れようよ。
そんな友達いらないよ。
裏切られるなら、友達なんて作らなくてもいいじゃん。だってあさにぃには僕がいるんだから」
「薫」
前はきっと、嬉しくなっただろう。
そんな風に支えてくれる薫が大好きで、誇りで、愛おしいと思えたのだろう。
"そうだろうか"
その言葉が出てきそうになったことに驚いた。
その言葉を飲み込んだのは、俺が薫を裏切ることになるのだと反射的に思ったから。
「じゃあ、」
これは、ほとんど無意識に言ったことだった。
「お前も、今の友達を全部捨てて俺だけに笑ってくれるのか?」
こんなこと聞くのは卑怯なことだとわかっているけれど、気づけばもう薫はそれに答えていた。
「あさにぃは俺からそれを取るの?」
「っ、」
『とらないでよ』
あぁ。
また俺は薫から取り上げようとしているのか。
「冗談だよ」
そう小さく笑えば、クンッと袖を引かれた。
でも、と。
「あさにぃがそう言うなら」
そうするよ、と薫の口が動く。
ふと、前にも似たようなことがあったと思った。
ハッキリとは覚えてないけれど、同じようなことが。
なんで思い出せないのだろう。
そう遠くはない過去のことのはずなのに。
「あさにぃ?」
「薫、お前少し前に俺の同じようなこと言ったか?」
「……え?」
「友達なんてつくらなくてもいいんだって」
俺に言ったか?
「あさにぃ…、何言ってるの?」
「違うならいいんだ」
「………あさにぃ、疲れたんだねきっと」
優しく、そっと囁くように薫の声が俺の体を撫でていく。
「疲れた…のか、」
「うん」
そうだよ、と優しく紡ぐ。
「ちょっと、シャワー浴びてくる」
まだ夕方だったけれど、頭を整理するには丁度いいと立ち上がり風呂場へ向かう。
ふ、と金色の髪を揺らしながら笑みをこぼしたのは咲田薫。
「また、邪魔をするんだね」
そうはさせないと口を三日月型に綺麗に歪ませる。
記憶なんて戻らせない。
あさにぃはそのままでいい。
だって、
「あさにぃは僕のーーなんだから」
離したりなんかするものか。
歪な形の兄弟。
歪んだ関係は兄弟というそのカタチすら崩してゆく。
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