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変化(4)
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昨日、誕生日だった。多分、そろそろ電話がくるだろう。俺にはまだ猶予がある。実家に帰ると恋人ができたのかとは聞かれるけど、まだ結婚の話にすらいってない。けど、この人の場合は違うはず。だって、もう30だ。親から結婚しないのかと言われる年齢だろう。孫の顔が見たいだとか、下手をすればお見合いさせられるかもしれない。ドラマとか漫画の話だろと思うけど、この人の場合はその漫画とかでよくあるような、家系育ちっぽいし。でも、家の話を聞いたことないな。というか、あまり自分のこと話してなよな、この人。
俺は、この人の将来を奪ってしまっていいんだろうか。このままの現状を維持しても、この人の未来を奪うことになる。そういうことを、一緒に暮らすようになってから、毎日かのように考えてしまっているな。
「鍋危ないぞ。」
「あ。」
「何か考え事か?嫌じゃなかったら聞くけど。」
「とりあえず、ラーメン食べてからで。すみません、麺のびてしまいましたけど。」
「そうだな。」
逃げてちゃ、だめだよな。俺一人で勝手に決めて、ここから逃げ出せば今度こそ本当の監禁状態にあうかもしれない。でも、話してもいいんだろうか。きっと、そんなこと考えるなと言われる。俺がどれだけ、これからのことを考えても。それを伝えても。きっと、一刀両断で。あっさり答えられてしまうんだろうな。
「で。何をそんなに考えてるんだ。どうせ、お前のことだからろくな事じゃないだろうけどな。」
「康介さんは、女の人も好きなんですよね。」
「まぁ、そうだな。」
「なんで、俺ですか。子供も、結婚も出来ないのに。ただ好きって気持ちだけで、周りからは嫌悪の目で見られるのに。」
光さんといた時もそうだった。時々、そういう視線を感じた。その度、光さんは怯えていたし、悲しんでいた。時には家に帰ってから、泣くこともあった。その度に、何度別れてあげようか迷ったことか。あなたを好きになって申し訳なくなったことか。あの日、強姦現場に居合わせたのが俺であったことに後悔をしたことか。
「お前は気にすんの?好きになってしまったんだから良いだろ。子供はどうしようもないけど、結婚は出来ないわけじゃない。人の目だって、少しずつ変わっていってるだろ。」
「不安はないんですか。」
「同性だろうとなんだろうど、誰しも付き合えば不安なんてあるだろ。そういう時はお互いに支え合えばいい。」
「なんか、あっさりですね。」
「お前が俺の傍から消えるほうが嫌だから仕方ないだろ。こんなにも好きになってしまったんだし。もう、今更そんな悩みなんて俺にとっては、そんなのとっくのとうに覚悟の上なんだよ。」
「そんな悩みって…。親にも、嫌われてしまうかもしれないんですよ。」
「はっ、そんなの気にしなくていい。俺はもうすでに嫌われてるさ。あいつらにとって、俺はただの金づるだよ。そんな話を持ち出すってことは、やっと俺と付き合う気持ちになってくれたってことか?」
「いや、このままでいても、進展してもどっちも一緒だと思って。逃げるって選択肢は、潰す気だろうし。」
「逃げたらすぐに捕まえてやる。」
今の関係から進展させるとして、この気落ちは本当に恋愛感情ってことでいいんだろうか。俺、この人の事好きなのか?上司として、人として尊敬の好きなんじゃないだろうか。ヤれと言われればやれる。キスもできる。けど、光さんの時とは微妙に違う気がする。そりゃ、光さんとこの人はタイプが真逆だからというのもあるかもしれない。
「…正直、この感情が恋愛感情なのかわからないです。」
「ほう。」
「ヤろうと思えばヤレますけど。好きかと聞かれると、謎です。」
「うん。」
「傷つきたくないんです。初めて付き合った人が光さんで、あの人は俺のことを好きだと勘違いしていただけで、普通の人生を選んで。あなたのその感情も、ただの勘違いなんじゃないかと思って。2度も同じ目にあったら、今度こそ助け出してくれる人はいないし。」
「まだ信じてなかったのか。」
「信じたくても、信じられないんですよ。」
わかってる。自分自身が矛盾しているということを。好きが怖くて、もう恋をしないと決めたくせに。散々、この人の好意をスルーしてきたくせに。この人の気持ちをいじっていたくせに。今更、どうすればいいのかわからないって。怒られるべきだ。気まぐれすぎだって。何でもかんでも言い訳をするなって。
「俺の一生をかけて証明してやる。」
「どうやって。」
「わからん。けど、本当に好きだから。離したくもないし、もうお前以外のやつでなんかヌけないし。なんなら、お前を他のやつの目に触れさせたくない。ずっと、閉じ込めてしまいたいぐらいに。」
「…下ネタ入れてくるのやめてほしい。やっぱ、敵わないですね。」
俺がグダグダ悩んで、答えを出せなくて困っているのに。意図も簡単にこの人は答えを出す。それ以外に正解がないかのように。この人は、強いな。他人に惑わされずに、自分の意志をまっすぐ貫いて。
悩んでも仕方がないのかもしれない。後悔してしまうかもしれない。もう、立ち直れないかもしれない。壊れてしまったら、壊れてしまったでもういいか。その時は、もうそれでいいや。男しか好きになれないなんて、幸せよりも苦しみの方が多いのだから。きっと、俺が生きている間に差別がなくなるわけでもないんだ。
後頭部に手を回し、俺はあなたに口づけを交わした。
どうにでもなってしまえ。
「こんな面倒くさい俺ですけど、よろしくお願いします。」
「よろこんで。」
そう言って、すごく嬉しそうな表情をするからこっちも嬉しくなった。
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