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変化(9)
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特にすることもなく、朝と同じようにテレビを見ている隣で昼寝をし始めた。…さっきは眠れたけど、あまり長い時間昼寝や二度寝が出来なくなった。けど、こいつは結構長い時間気づいたら寝ている。これは年の差のせいだろうか、羨ましい。肘掛けに腕をのせ枕代わりにして寝ている。…ベッドで寝かしてやりたいが、抱き上げたら起きるか。
テレビをつけっぱなしの状態で、皐月の寝顔を眺める。
月曜から仕事が忙しくなる。今まで定時で帰れたこと自体がおかしいし、早く帰ろうと仕事の効率をよく捌かしていたがそうにもいかなくなった。大きな仕事が依頼されたし、接待として外食も増える。代表を引退しようか。そして、カフェでも開こうか。折角いい感じに進展したのに、このままだとすれ違いになってしまう。まぁ、そんなことを皐月に伝えたら馬鹿でしょと一喝されることは目にみえているから、現段階では選択肢の一つとしてだけ、自分の中で決めておく。
いつか、俺は皐月に自分の親のことを話さないといけない。それ以外にも、話さないといけないことが沢山ある。けれど、それを話したら皐月が黙ってどこかに消えてしまうのじゃないか。それならば、何も話さず隠したまま自分の幸せだけの為に過ごしてもいいのではないかと、ずるい考えをしてしまう。
ずっと、繋ぎ止めておきたい。これ以上醜い自分を知られたくない。
「…苦しい。」
「すまん。」
何故、人間は醜い感情を持ってしまうのだろう。幸せばかりで駄目なんだろう。いや、幸せばかりじゃなくても平凡な人生でもいい。
かっこよくいたい自分。皐月の好みのタイプになろうとしている自分。いつかボロが出てしまわないかと焦る自分。2人だけの世界が作れたら。そうすればきっと、醜い感情を持つことはない。
俺がただの俺で。経済力も、家事も、人間関係も何もかもを捨てたとすれば。何もなくなってしまった俺を愛してくれる人はいるのだろうか。ただ感情だけをもって生きている自分を。その可能性があった皐月に俺は惚れたわけだし、こうして手に入れることができたが、皐月はもう俺に毒された。
座って寝ていた皐月の太ももを枕代わりにして、抱きついていると気づかないうちに力がこもってしまったらしい。それでも、少し力を緩めれば突き放すこともなく、このままの状態でいさせてくれる。以前のままだったら、突き落とされていた。
「具合とか大丈夫です?」
「ん、平気だ。」
「強がったりはしないでくださいね。俺、あなたほど勘はよくないので。」
「そんなに心配しなくても、俺はタフだからな。」
強がらないでと言われてすぐに強がってしまう自分。そのことに気づかないでほしいと、気づいてほしいと理不尽な思い。
本当はタフなんかじゃない。昔は体が弱かった。すぐ体調を崩した。今でもそれは変わらない。けれど、それを上回るぐらい演技をする力を身に着けた。少しの変化も顔に出さないようにと努力をしたからだ。体が細いと、体調が悪そうに見えると思い風呂上がりに毎日体を鍛えて。皐月といると狂わされるけど、もう何年か前から泣けなくもなった。けど、皐月が関わると涙は出るから不思議だ。
「皐月の方こそ、大丈夫なのか?」
「まぁ、1回ぐらいなら大丈夫ですよ。思ってるより、体力はありますから。」
「そうか。」
俺と皐月は似ている。ネガティブ思考で、自分の傷を見られたくなくて、人に頼ることが怖くて、人に尽くしている方が落ち着く。皐月の場合は、ほとんどが元恋人に植え付けられたトラウマ。俺の場合は、ずっと昔のことがトラウマになっている。ただ、違うのは皐月の場合、自分では気づいていないだろうけど、少しずつ克服をしていっていること。それに比べて俺は、何も変わっていないこと。
「うわっ、服の中に頭突っ込まないでください!」
「ちょっとくらいいいだろ。」
「嫌ですよ!変態にも程があるでしょ。」
「変態で結構。」
「…そんなことをすると、減点ですね。」
そう言われて、さっとやめると呆れたように笑われる。
「ほら、さっさとお風呂入ってきてください。」
「先に入れよ。」
「俺は、夕飯作っとくんで。精々、水が滲みて慣らさなかった事を後悔してください。」
「いや、後で入るから入って来い。」
「…へぇ。」
「入ってくる。」
何となく、入らないといけない雰囲気を感じて痛む箇所を気にしながら風呂場へと歩く。これだと、どっちが年上なのかわからないし、段々終えがやっておくべきことを皐月に取られている。
鏡に映っている自分の姿を見る。自分の顔はあまり好きじゃない。思い出したくないことを思い出させられる。子供は親を選べない。親は子供を選べないけど、産まないという選択肢がある。それなのに、自分勝手に産んで文句を言って。あわよくば、都合のいい道具かのように扱って。必要な時だけ、気持ち悪くまとわりつく。
大人は汚い。汚い大人になんてなりたくないと思っても、時がそうさせる。子供の頃、一番なりたくなかったものになった。時が止まることも、死ぬことも出来ないまま。鏡の中の俺が言う。所詮お前も同じなのだと。お前の中にはその血が混じっているのだと。どう足掻いても、苦しんでも逃れられない枷。
ふと、首元に赤くなっている箇所を見つける。…いつのまにつけたんだ。一瞬で暗い気持ちが飛び去って、目の奥が熱くなる。ずるいだろ。好きかわからないと言っておいて、こんな期待をさせるようなことをして。皐月の少しの行動に踊らされる自分に笑える。
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