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変化(11)
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~ Satuki’s side ~
ぐったりと眠っている康介さんを見下ろして、自己嫌悪に浸る。
吐く瞬間まで、体調が悪い事に気づけなかった自分が情けない。俺が体調悪かったら気づかれるのに、ほんと情けない。この人ばかりが悪いわけじゃないのに、ずっと我慢させてたのかと思うと八つ当たりで怒鳴ってしまった。てっきり、ベッドから降りようとした時、昨晩の行為が腰に響いたのかと思った。けど、それは本当は体調が悪かっただけなんだと今になって気づく。
俺が部屋を出ていこうとした時、名前を呼ばれた時、本人は気づいていないんだろうけど泣きそうというか、自惚れかもしれないけど傍にいてほしそうな表情にぐっと心臓を掴まれた。メス化というと言い方が悪い。でも、何か丸くなったというか、可愛くなったというか。守らないといけないような雰囲気になったし、俺を甘えさせようとするのではなく、自分から甘えてこようとするし。俺自身、浮かれていたというか、調子のっていたんだと思う。だから、言い訳ではないけど隠していることに気づけなかったんだ。
あの人…光さんは、すぐに表情や言葉に出すタイプだった。嫌なことも、してほしいことも。でも、この人は逆だ。人のことは、当の本人よりも心配性というか。大したことでなくても、大げさに看病したりするくせに。自分のことは我慢ばかり。それに上手く騙されている自分にイラつく。
体調悪いのに、何でシてほしそうな顔をしたんだ。どうしようもない馬鹿だろ。俺も、ちゃんと一つ一つの行動、仕草に注意して見ていれば気づけただろうに。
だけど、入社して数年。この人が体調を崩している所を初めて見た気がする。
「皐月。」
「起きたんなら、何か食べれます?」
「…迷惑…、手を煩わせて悪かった。」
その言い方にカチンとくる。謝ることは、それじゃないだろ。俺が強がるなと言ったことも無視して、我慢して隠してたことを謝るべきだろ。
「…食べれそうな物、用意してきますね。」
いくら上司でも、年上でも、恋人になったとしても。苛ついて、酷いことを言ってしまいそうで、その場から逃げるための口実を作ってベッドから離れて部屋を出る。苛ついているの、表情に出てただろうな。でも、頭良いんだからよく考えれば、俺が何で苛ついているのかぐらいわかるだろ。そこまで、馬鹿じゃない。…明日月曜日だけど、ほっとけば仕事行きそうだな。
雑炊と水、薬を持って部屋に戻ると、康介さんは口元を手で押さえ込んで体を丸め込んでいる。慌ててお盆をサイドテーブルに置いて、近くにあったゴミ箱を手に取る。
「吐いて。」
寝室用のゴミ箱だから、中身は何も入っていない。顔の前へと持っていき、背中を擦る。それでも、頭を左右に振って吐くことを拒む。今にも吐きそうなのか、嗚咽しているのに、苦しさで涙目なのに。何がそんなに嫌なのか知らないけど、弱っていることをチャンスとし、口元を抑えていた手を無理やり退け、指を口の奥へと突っ込む。今朝、胃の中のほとんどを出し切ったのか、ほとんど胃液ぐらいしか出てない。口を濯がせて、ゴミ袋を処理し、手を洗って部屋に戻る。
「食べたら吐くだろうし、寝てて下さい。」
色々と、俺がプライドをへし折ってやったから素直に横になるのを見てホッとする。今更だけど、よくよく考えれば俺も体調が悪い事を隠していたことがあるから、人のことを怒れないんだと気づいて苛々が半減した。それでも、体調が悪い事をこの人にすぐバレてしまって、帰らされたな。
睫毛についた涙を手で拭ってやる。
「頭、痛いですか?」
「…少しだけ。」
「吐き気は?」
「もう大丈夫だ。」
その言葉に嘘はなさそう。さっきに比べれば、少し楽そうだ。
「ほんと、悪かった。汚い嫌な思いをさせて。」
「それは仕方ないことですけど、俺がムカついたのは我慢してた事にですよ。」
「…悪い。」
絶対、そこに関しては反省していないんだろう。もういいさ。わからないんなら、それで。
少し伸びて邪魔そうな髪を耳に掛けてやる。呼吸はまだ荒いし、額を触ってみれば体温も高いみたいだ。布団を肩までかけ直す。まだ肌寒いのに、上半身裸で寝ていたのだから、体調を崩して当たり前といえば当たり前で。でも、それは冬でも風呂上がりとかそんな感じだったし。それなのに、今まで体調を崩した姿を見たことがあにような気がするのは…今まで、体調が悪くても今日みたいに隠し通していたのか。そして、皆そのことに騙されていたのか。はぁ、怒る気力も失せるな。
「寝てください。」
「家事は明日するから、置いといてくれ。」
「はいはい。」
「テレビでも見てこい。」
「ここで本読んでますので、気にしないでください。」
どうせ、気分が悪くなっても呼んでくれなさそうだから、隣に居座るしかない。まぁ、丁度読みたい本が溜まってきたことだし。雑炊は…、あとで俺が処理しよう。今食べたい気分でもないし、捨てるのはもったいない。
ベッドの上に座って本を開く。体調を崩しているから、今日はおとなしく読書の邪魔をしてこない。でも、本を開くにも心配でページを捲るものの、全然内容が頭に入ってこず。康介さんは、俺の脚にピッタリとくっついたまま、いつの間にか寝ていた。さっき、適当に返事をしたけど、もちろん明日体調が回復していようが、してなかろうが家事をさせる気は全く無いし、仕事に行かせる気もない。
夜に菊池さんにでも先に連絡しておこう。先に休むことを連絡しておけば、仕事に行くのも諦めるだろう。…きっと。
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