アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
19
-
Z組では起立、礼という号令は存在しない。
号令したところで誰もやらないし。
いつもチャイムと同時に先生が授業を始めるのだが、しばらくしても大木先生は声を発しなかった。
さして興味をそそられない教科書に目を落としていた俺は、異変に気付いて顔を上げた。
バチリと先生と目があった。
……えっ。
なんだ、まさか俺を見ていたのか?
と焦ったが、すぐに後ろの体育着姿のトラを見ていたのかと思い当たる。
1人だけ体育着だもんな、そりゃ目立つだろう。こりゃ注意されるなー。
なんて呑気に考えて先生を見ていると、先生はこちらを見ながら唐突に口元を押さえて「ゔっ……!」と呻いた。
なんだ、産気づいたか。
「うぅっ、ぐすっ……望月ィ……!」
「……えっ、ハイ?」
かと思いきやなぜか涙ぐんでいた。
そしてなぜ俺呼ばれた?トラじゃないの?
大木先生が入ってきてもなお騒いでいたクラスメイト達も、さすがに何事かと様子を伺っている。
しんと静かになった教室で、グズグスと鼻を啜る音だけが響く。俺達は先生の次の言葉を待つしかなかった。
先生は涙を拭い、その暑苦しい顔に似合わない慈愛に満ちた表情をした。
「望月は……今日も元気だなァ……」
「……」
俺は数秒、何を言われたのか理解に苦しんだ。
返す言葉もなく呆けていると、ドッと周りが大爆笑に沸いて先ほどまでの妙な緊張感が霧散する。
「ギャハハハハ!なんだよ今日も元気だなぁって!」
「しかもなんで望月限定っ」
「なんの確認だよ!つーかなぜ泣く!」
「ヒーッ、腹いてぇ!」
どうやら彼らのツボに入ったらしく、なかなか笑いが収まらず地面にのたうちまわって笑うヤツまでいる。
そこまで面白いか?俺は謎の恐怖に身震いが止まらないのだが。
この騒がしさの中、大木先生はようやく授業に入っているが俺はどうしたらいいんだ。どんな気持ちで授業に取り組めばいいんだ…!?
戸惑いを隠しきれず教科書を握り締めていると、後ろからつつかれた。
思わず助けを求めるように振り返る。
「ツル、大木先生となんかあったん?」
「俺が知りたいよ……」
なんなら今のが初めての会話だ。
前の体育の授業では先生がバスケそっちのけで生徒達とバトルしていたから近付いてすらいない。
涙ぐみながら元気を確認されたのなんて生まれてこの方初めてだ。
というか、トラが体育着なのは誰もつっこまないんだな。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
84 / 90