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あれから珠蘭屋に帰った俺達は、それぞれの仕事を済ませて、時間はあっという間に過ぎた。
早くも珠蘭屋開店時間になり、俺は玄関に付く。
数分もしないうちに、一人目の大尽がきた。
「お待ちしておりました。」
もう大分、この言葉には慣れてきた。
何度も接待してきたし。
「お、君は新入り君」
「え?あ…今済様!ようこそおこしくださいました」
大尽の俺を見知った言葉に顔を上げると、そこには、俺が初日に案内した『今済様』がニコニコと立っていた。
胃が弱い人だよね……。
「案内いたします。足元お気をつけください」
2度目の人が最初に来てくれて、少し緊張が解けた。
よし、自然に笑えてる。
「ありがとう」
前回同様、一階の奥の部屋にお通しする。
歩き方も、スッスッと音を立てずに歩けてる。
結構良くなってる気がする!!
「ここで少々お待ち下さい」
座敷の障子を開け、今済様を中へ通す。
すると────
「君、ちょっとの間、話し相手になってもらえないかな?」
「え……?」
今済様は振り返り、俺をじっと見つめる。
は、話し相手……?
「あ……仕事がまだあるよね。すまない…大丈……」
少し残念そうに謝る今済様を無下にはできず、咄嗟に返事してしまった。
だけど、まだそんなに混む時間じゃないし、いいよね。
「いえ、大丈夫です。お話お聞きしますよ」
「本当かい?じゃあ中に入って」
「失礼します」
これって、裏方が入って大丈夫なものなのかな?
でも、大尽に言われたことだし……。
俺は少し躊躇いならも中に入った。
「いやぁ、無理を言って悪かったね。最近人と深く話すことがなくて。何だか君と話したい気分だったんだ。」
今済様は胡座をかきながら、横の畳をトントン、と叩き、俺にも座るように促した。
その指示を受けて、俺は今済様の横に座った。
「俺もまだ緊張してて、こうやって話せると気持ちが楽になります。」
「…、そう言って貰えると嬉しいよ」
今済様の目尻の下がる笑顔は、今済様の人柄を表すようで、とても優しさが伝わる。
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかった。名は?」
「吉乃楓です。」
「楓……。いい名前だ。」
今済様は『楓』『楓』と復唱し、また、柔らかい笑顔で笑った。
「楓も、出来れば堅苦しい呼び方じゃない方が、私も嬉しいのだけど」
堅苦しい呼び方じゃない……?え、ど、どう呼べばっ…!?
「あぁごめん。別に困らせたい訳では無いのだけど、どうかな?」
気持ちがすぐに顔に出てしまう俺は、今済様に困っていると思わせてしまったらしい。
どうしよう、気使わせちゃってるよっ!
「私、下の名前は伸之助といってね、軽く呼んで欲しいんだ。」
今済…伸之助さん……
どうしよう、でも、それが今済様の要望なら……
「……伸之助…さん、?」
おずおずと口に出した名前に何だか恥ずかしくなり、チラリと今済……伸之助さんを見やると、また、目尻を下げて優しく笑っていた。
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