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71 糾弾する人々
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日曜日 千春と 会員制のスーパーに買い物に来た。マンションから少し 離れた県外。
店内で着かず離れず2人で ストックする肉の塊や骨付き肉を買い込む。こんな些細なことが 何となく嬉しい。
あれこれメニューを考えながら こういうの作ろうか いや これで あれは?なんて 相談して さりげなく2人で 覗きこんで 同じ品物に2人して手を延ばす。
2人で苦笑いしてカートを押しながら さりげなく 千春の手を触ったり 千春が可愛いく 睨むのも 又 楽しかったりする。
地元のスーパーではないから見知った人間に会わない。
が、
仕事上でお互い 知らない人間に顔を晒しているから どこで誰に見られるかわからないので あまり 親しげに体を密着させたりはしないけど。
店内で嬉しい発見もある。普通じゃ考えられない程の価格の 牛タン塊も買う。
スーパーでもウスギリやちょっと厚めのスライスしたものは売っている。
しかし千春の作る丸ごとタンを処理して煮込む牛タンシチューは絶品なのだ。
血抜きや時によって 皮を処理するのが 普通の人は苦手なようで 精肉店で注文取り寄せしないと 牛タンの塊は 中々手に入らない。
しかしここのは 冷凍だが 皮剥きされているので 臭みとりをして 好みの大きさのシチューが作れる。
タンについては 僕も千春も 焼き肉は好きだが 何故か タン塩は あまり好まない。焼き肉は タレ でという 考えだ。
そのくせ とろとろに煮込んだタンシチューは好きなのだ。
大きすぎて ちょっと好みではない ピザやアイスクリームをスルーして 千春はお菓子を見に行き 僕は その他の肉類をもう一度 見てまわった。
2人で レジに向かい 支払いを済ませて
駐車場で買い物した物を トランクに入れていた時だった。
不意に 声を掛けられた。
「おい お前 〇〇タクシーの運転手じゃないか?
こっち向けよ。おいっ。
やっぱりそうだ。
こんな処で いっぱしに 買い物すんのかよ?」
そう声を掛けて来たのは 歳の頃は 4~50代とおぼしき 男と それにだらしなくぶら下がる 明らかに お水系の濃い化粧をした 派手な服の女。
言われて千春が振り向いた。
「へっ?失礼ですが どちら様でしょうか?」
千春は冷静だ。
「何言ってんだよ。今も散々使ってやってるじゃねーか。〇〇町の岩手だよ。岩手動物病院の岩手!
ついこの前 お前のタクシー頼んでやったじゃねーか。
そんとき タクシー代の後払いを断られてよ!
大事な客だからって 俺んちから成田空港まで 頼んだだろう?お前に。」
「すいません。俺 物覚えが悪くて。」
そういえば この動物病院のCM を見たことがある。県内放映のテレビ局で。確か横浜市内に2~3軒分院があった。
「俺ん家は △△町。
俺ん家にお前ん処のタクシーを呼んでよ。大事な客だからって お前に頼んだだろうよ。払わねえって言ってる訳じゃねーのに。あとで 〇〇町の病院まで 掛かったタクシーの金を取りに来いって言ってるのに。出来ませんの一点張りで。頑固で融通効かないよな。お前はよ!
〇〇町と△△町は目と鼻の先だろうに。現金払いでって お前はよ 譲らなくてよ。俺 金ないわけじゃねーよ。俺ん家 知ってるだろうに。あの辺じゃ 一番でかい家だろうよ。岩手動物病院っちゃ 知らねー奴居ねーだろうよ。お前んとこのタクシー贔屓にしてやってるのによ。恥かかされたんだよ。お前の顔は忘れねーぞ。
ついこの前も 家に呼んでよ 横浜駅まで 乗ったよな。お前の運転でよ。なぁ 運ちゃんよ。」
〇〇町も△△町も横浜市内だ。
千春は黙って その勘違い野郎の話を 聞いている。
馬鹿もここまで来ると 憐れだ。
千春がタクシーをしていたのはもう1年以上前だ。よほどケチでタクシーを使わないらしい。成金のアホだ。しかもタクシーは現金払いで 貸し借りは無い。独自のタクシーチケットを使う会社も有るが 共通チケットは横浜では無い。Card決済は有るがそれ以外 現金支払いだ。
しかもタクシー料金を取りに行く?
降ろした場所から離れた病院まで?
成田からそこまでの足代は?
どうしようも無い人間だ。
成田空港まで乗ることは 珍しいことでもないが 彼にとっては よほどの遠距離だったのか?
しかも今は 公私の私。それを 悪し様に 因縁を付けてくるなんて 話にならない。よほど 怒鳴ってやろうかと 思ったが よくよく考えたら タクシー会社は 今や 千春の会社の関連会社だ。
千春も会社のことを考えて 昔のタクシー時代の話を とぼけて いるのかもしれない。
しかし 金を払う側だからと 威張り散らす と 言うのは 人間の品格が伺える。
ああいう人間は 例えばホテルで 車のドアを開けてくれたホテルマンに感謝の言葉も言えないだろう。どこかの会社の守衛さんにも 横柄な態度しか取れないだろう。もちろんタクシーを降りる時もありがとうとも言えないだろう。子供が 居たら モンスターペアレントになり 教師を悩ますだろう。飲食店やコンビニで 何か不都合が生じれば これ幸いと 客を馬鹿にするのかと 口角泡を飛ばして 従業員に脅しをして 土下座をさせたりするのだろう。
男としての いや 人間としての 品位や品格が無い。
対して 千春は
背筋をぴんとして 毅然とした姿勢で 相手の顔を真っ直ぐに 向け 話している。
多少社会的に地位が有ろうが 少々金が有ろうが こうした 態度しか取れない人間なのだろう。底が知れている。
ねぇ 早く行こうよ
と 女に促され ちっと舌打ちまでして 去っていく 男は そばにあった車に乗り込んだ。
助手席に。
女は運転席に座り 乱暴な運転で 去っていった。
「真弓さん すいません。昔のお客さんなんですよね。」
「ああ。あの男 免許持ってないの?それか 取り消された?」
「なんか 俺がタクシーやる前に 酒気帯びで 取消し」
どうせ 再び自動車学校に通うことが 嫌だったんだろう。自分の病院に行くには 研修医や看護師に送り迎えをさせているか自転車で行っているのか。
「千春?これから美味しいものでも食べに行こう。
横浜まで足を延ばして。ハングリー〇イガーの鉄板焼きハンバーグ?伊勢佐木の なわのれん の すき焼き? 伊勢佐木なら蟹でも。中華街?天ぷらも良いね。」
すると にっこりとして千春は
「うちに冷凍してあるうどんがありましたよね。春菊のかき揚げもこの間のが冷凍してあるし。今日は寒いし 家で鍋焼うどん作って 食べましょう?」
そうだね。それが 何よりも 美味しい。
帰ったら 熱々うどんを食べて 美味しいほうじ茶を飲んで 少し 昼寝でも しようね。
千春。
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