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忘却と……
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父さんは母さんに付き添ったきり、余り寝てないし、家の事もしてない様子に見えた。俺はシンクの前に立つと両腕の袖を捲って溜まっていた食器を無言で洗った。水の流れる音が、キッチンの辺りに響いた。誰もいないリビングはやけに広く感じる。
自分の気のせいだろうか。いつもなら家族団欒の時を一緒に過ごしている時間だ。テレビの前の赤いソファーには悠真がいて、そこでリンと仲良く寛いでる。父さんはテーブルの椅子に座って本を読んだり、新聞を読んで寛いで。母さんはキッチンの前で洗い物をしたり、急がしそうに料理を作っている。そして俺は……。
何故だかここに立って見える景色は、とても殺風景に見える。誰もいないリビングはとても虚しい。弟が急にいなくなってこんなに世界が一気に変わるものなのか――。
今もこの瞬間も悠真がどこで何をしているのか、無事なのかそれとも安全なのか、酷い目に遭わされないか、そう思うと頭がおかしくなる。
悠真が無事でいてくれたら、少しでも自分の気持ちが落ち着く。だが、弟の足取りは未だに掴めないままだ。弟が消えてそれからと言うものの、貼り紙を何枚も印刷して友人にも協力してもらい。街中の歩いている人達に配った。だが、何1つも弟の情報は掴めないままだ。
ついでに肝心の『目撃証言』もない。八方塞がりとはまさにこの事だ。父さんも母さんも俺も限界だ。せめて1つでも、何か弟の足取りが掴めればいいのだが…――。
そこで一人考えていると、シンクの中はいつの間にか水で溢れていた。ハッとなって我に返ると慌てて水道の蛇口を閉めた。
「まったく何をやっているんだか。こんなんじゃ、駄目だろ……」
そう言って自分に対して愚痴を溢すと、シンクの中に溜まっていたお皿を全部洗い終えた。そして、急に眠気に襲われた。
「駄目だ。少し寝よう……。このままじゃ…――」
急に眠気に襲われると自分の部屋で仮眠しようと思いついた。2階に上がろうとリビングを出ようとした時にリンが窓の前でジッと外を眺めていた。そして、元気がない様子で鳴いた。
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