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『兄』
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「叶多のせいじゃん?」
そして、いつか言われた言葉を再度言われる。
は?と俺は想定外のそれに一瞬怒気を削がれ、絞める手を弛めた。シャツから離れかけた俺の指を、いっそ恭しいくらいの仕草で遥は取る。その爪先に口付けて俺を流し見た。
「…叶多がサクと居ると楽しそうだから」
「え…?」
意味が理解できない俺を一瞥すると遥はケラケラ笑った。ここで笑える神経にゾッとして、反射的に手を振り払い後ずさる。尚も遥は笑い続ける。
「あーもう叶多ってさあ…ははっ、ほんっと鈍いよねえ。部屋に仕掛けた盗聴器にもゼンゼン気付かないし」
――とう、ちょ…?
俺の脳内が真っ白になる。変換すら無理だった。
「ん、アレで音拾うんだけどさ」と、遥は自慢のオモチャでも見せびらかすようにウキウキと棚を指し示す。そこには見た事のない黒い機器が置いてあった。禍々しさすら感じてソレから身を引く俺を、いとおしげに遥は見つめる。
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