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部屋に戻ると、燕羽が心配そうな顔をして抱きついてきた
「楓、心配したんだよ・・・・何かあったの?」
「ごめんね、何でもない」
「ホント?」
「うん、初めての仕事は覚える事がありすぎて」
「そうなんだ」
「少し疲れたから休みたいかも」
「わかった、何でもないならいいんだ」
「うん」
ベッドに戻り、小さく溜息をついた
翔は相変わらず無視だった
ベッドに横になりながら色々な事を考えた
でも、何をどう考えても俺には未来は無い
それだけははっきりわかった
あっ・・・
お風呂
無視をされても声をかけるべきだよね
本当は疲れて動けないけど無視されるよりはいい
そのまま立ち上がり、翔に近付いた
「翔、お風呂どうする?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まだ怒っているのかな
「こことは違う匂いがする」
「えっ?」
「俺の大嫌いな匂い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
消毒の事かな
俺も嫌いだけどね
「来て」
「・・・・・・・・・・・・うん」
お風呂ではなさそうだ
でも、体力は余り残されていない
向かった場所は図書室だった
どうして?
部屋に入り、そのままいつもの椅子に腰掛けた翔
明かりはつけないままだった
「今日、どこへ行ったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「言えないような所?それとも俺には言いたくないのかな」
どうせいつかは気付かれてしまう
隠していても命の時間は同じなんだ
同情されたいとは思わない
でも、話しておくべきだと思った
「病院だよ」
「へぇ・・・初めての事だね、和海」
「そうですね、ここから外へ移動すると言う話は初めて聞きました」
「・・・・・・・そう」
「でも・・・・・風邪ではなさそうだね」
「うん、違うよ」
「話したくないのなら聞かないけど」
「出来れば聞いて欲しいかな」
「わかった、どうぞ」
そして俺は全てを話した
残された時間が残り少ないと言う事も全て
でも、翔の反応は変わらなかった
驚きもしないのが寂しかった
「質問です」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
話をしたばかりなのにいつもと変わらないんだね
「楓はどうしてこんな場所に戻ってきたの?」
「最期の時間まで一緒に過したいと思ったから」
「俺と和海って事?」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙り込んだ翔を照らす月明かり
その中の翔はとても綺麗だった
「死ぬ事は怖くないの?」
「どうかな・・・・・その時にならなければわからないかもね」
「生きたいとは思わないの?」
「本心を言うのならこのままずっと傍にいたいと思うよ・・・・・でも出来ないから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
本当はずっと傍に居たい
居たいけど無理だから悲しい
「じゃさ・・・・どうせ死ぬなら今ここで死ねば?」
「えっ?」
「同じでしょ?」
「それを翔が望むのならそれでもいい」
本当にそう思った
最期に翔のお願いを聞けるのならそれで幸せかもね
「じゃ、どうぞ」
そう言って、綺麗なナイフを渡された
綺麗だけど、鋭いナイフ
心臓に突き刺せば死ねるぐらいに尖ったナイフ
そのナイフを見つめ、静かに言った
「もし、最後に我儘を聞いてくれるのなら俺が死ぬまで抱きしめて欲しいな」
「俺?」
「二人」
断られてもいい
でも、悔いを残したまま死にたくはない
「いいよ、和海」
「はい」
二人に抱きしめられながら思った
今・・・・すごく幸せだと
「どうしたの?」
「初めてだなって・・・・」
「何が?」
「幸せだと感じる事が出来た」
「そう」
「ありがとう・・・・じゃ、先に行くね」
恐怖は無い
このまま死ねるのなら幸せだ
だから迷う事無く、ナイフを自分の心臓に突き刺した
「嘘ではなかったと言う事か・・・・・・」
「そうですね」
「こんな奴初めて」
「ええ」
息絶えた楓を抱きしめたまま、血だらけのナイフを取り自分の腕に突き刺した
流れ落ちる血をグラスに入れ、微笑みながら静かに言った
「願いは叶えてあげるよ・・・・・楓」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
生きる事は死ぬ事よりも辛い事
それでも俺達と生きたいと願うのなら楓の願いを叶えてあげる
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