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【恋人にリンゴを/晴悟】目覚ましのベルはもう少し待って
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「おはようございます、晴臣様。お目覚めのお茶を持ってまいりましたよ」
かたかた、とワゴンを押して晴臣の部屋に入る。けれど、今日の晴臣の部屋はいつもと違っていた。
いつもなら「おはよう、悟」と晴臣は起きていて姿を見せてくれる。その声と姿がないのだ。まだ眠っているのだろうか。悟は珍しいなと思いながら寝室へと向かった。
悟が寝室へ入ると、やはり晴臣はベッドの中で寝ていた。悟はその姿を見て心配になる。疲れてはいないだろうか。体調が悪く、寝不足になっていないだろうか。晴臣が病にかかっているから、負担をかけさせたくない。そう強く願っているからこそ、小さなことでも不安材料になっている。
顔を覗き込むと、晴臣の顔は穏やかなものだった。顔色は悪くなさそうだが、穏やかなのも晴臣が離れていきそうな気がして怖い。やっぱり、声を聞いて晴臣の温もりを感じないと、怖い。
悟は、ふっくらしている布団をぽんぽんと軽く叩く。
「晴臣様、朝ですよ。起きてください」
しかし、晴臣に反応はなかった。穏やかな顔のまま眠っていて。
「晴臣様……?」
ドキドキと心臓が鳴る。悟の中では嫌な想像が次々と膨らんだ。だって、晴臣が起きていないということは今までなかったし、声を掛けても少しも動かないし。今日はなにか様子がおかしい。そう感じた。
悟は困惑しながら晴臣の身体を揺らした。だが、これも反応がなくて、血の気がどんどん引いていく。
いやだ、早く目を覚まして、おはようと言って。
悟の目尻に涙が浮かぶ。
「晴臣様! い、息……っ!」
「……してるよ」
「あっ!」
慌てて晴臣へ手を伸ばすと、突如、晴臣の声が聞こえてきて、次の瞬間にはベッドの上にいた。伸ばした腕は晴臣の手が掴んでいる。
いったいなにが起こった……?
突然のことに悟はぽかんとしていて、くすくすと頭上から晴臣の笑う声がした。その方向へ顔を向ければ、晴臣は瞳を細めて言う。
「おはよう、悟。ちょっと驚かせようかなって思ったんだけど……あんまりよろしくない顔してるね」
ようやく聞けたおはようの挨拶に悟の瞳が潤う。じんと心地の良い声が響いて、耳が熱くなった。
ああ、晴臣だ。晴臣がちゃんと目の前にいる。それが実感出来ることが嬉しい。晴臣の太陽のような笑顔に触れる幸せな瞬間だった。
「晴臣様……心配させないでください。遠くに行かないで……」
「ああ……ごめんね」
遠くに行かないで。
悟はわざと晴臣を困らせることを言った。そうしないと、知らないうちに晴臣がいなくなっていそうで。案の定、晴臣は困ったように笑って、悟へ手を伸ばしてきた。その手は悟の頬へ触れて、優しく撫でる。
温かく、包み込んでくれる晴臣の手。それはひどく優しくて、悟は心の中でごめんなさいと呟き、自らも晴臣の手へ擦り寄せた。
「体調が悪いとかありませんか? 身体がだるいとか……」
「ん、平気。悟におはようしたから凄く元気」
「またそんなことを言う……」
「ええ? なんだか今日は不機嫌だね……本当に元気。悟がそばにいるから俺は元気でいられる。……ねえ、少しイチャイチャしようか」
頬を撫でていた手が背中へ回ろうとする。
しかし、悟はその手をすり抜けて上体を起こした。これは晴臣にとって予想外だったようで、見下ろした時に一瞬だけ目を丸くした表情が視界へ入る。
「駄目です。晴臣様、いけません。お持ちしたお茶もありますし、このあとの朝食も用意してありますから……」
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