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消えた鍵
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昼食後、部屋に来たスアムはどことなく怯えていた。
「本は持ってきたか?」
昼食中に言ったので忘れることはないと思うが。
スッと差し出された本は確かにカメリアがスアムに渡した本だった。
「今から防御璧の張り方を教える」
キョトンとしたスアムにもう一度同じことを告げると元気よく返事をした。
スアムに向かって空中に一つ円を描く。
覗くと円の向こう側にいる者の魔力値が見える。この値の目安は100パーセントで魔王と同じ。50パーセントも行けばいい方だ。
「……まぁ、これだけあればいい方だろ」
カメリアの呟きに首を傾げるスアムだが、カメリアは教えようか教えまいか迷った結果口を閉じた。
スアムの魔力値は予想外に高かった。本人は気づいていないだろう。そもそも知る術を本人は持っていない。
「防御璧は基本中の基本だ。今まで使ったことのある魔法を言ってみろ」
「あ……えっと…………」
「なんだ?」
「…………いです。」
「もっとハッキリ言え」
「ないです」
「生まれて此の方?」
「はい」
唖然とした。この魔界で、魔法を使ったことがないということ事態ありえない話だ。
「鎌は?」
瞳が赤いのは死神族の証。故に生まれ持っての武器は鎌だ。
「出したことないです」
「出せ。今すぐ」
「あの……」
「なんだ?」
「どうやって出せば?」
頭が痛くなったカメリアは目頭を抑える。そんなカメリアの反応に、スアムはオロオロし始めた。
「いいか、よく見てろ。こうやって出すんだ」
胸元に手のひらを当てて引き出すように手を離していけば、美しいワインレッドの鎌の柄が見え始め、徐々に姿を現す。
長身のカメリアよりも頭一つ分高く、鋭く光る大きな刃に緻密で繊細な柄の模様。
これは魂の輝きと同様に全て違い、同じものは一つとしてないただ一つの鎌だ。
次はスアムの番だと言わんばかりにカメリアが見ると、スアムは慌てて真似をした。
胸元に手を当て、手を離していくと引きずられるようにして鎌が出てきた。
黒い柄に花びらが散ったような赤い色の模様がとても美しい鎌だった。
息を呑むカメリアに、スアムは不安気に鎌を強く握る。
「カメリア様?」
「あぁ、いや、美しい鎌だな。よし、もういいぞ」
首を傾げるスアムに、初めて鎌を出したのだと思い至り鎌の消し方を教える。
「戻れと胸の中で唱えて鎌から手を離すんだ。慣れてくると意識しなくても出したり消したりできる」
「…………はい」
スアムがパッと鎌から手を離すとスアムの鎌は消えた。
少しのことに嬉しそうに笑うスアムを見て、カメリアの心がじわりと動いた。そんな初めての感覚に少し焦る。
「んんっ。今度は防御璧の張り方を教える」
「はーい」
そうして、時間は過ぎ、タキアがおやつを持ってカメリアとスアムのいる部屋へと来ると、その光景に目を見開いた。
「カメリア様、一体何をしているのですか?」
「あ?教育に決まってんだろ」
カメリアよりも一回り小さいスアムは関節を数箇所封じられて涙目でタキアに助けを求める。
「痛い痛い痛い痛い!!」
「このオレが懇切丁寧に教えてやってるのに一つも出来ないとかやる気あるのか?あぁ?」
「ある!!やります!!ごめんなさい!!」
そう叫んだスアムを解放したカメリアにタキアがおやつを差し出す。
「あぁ、もうそんな時間か」
「わっ!おやつ!」
「お前は防御璧張れるまでおやつ抜きだ」
「そんな!!」
肩を落として項垂れるスアムがちらりとタキアを見るも、苦笑を返されてカメリアの命令が覆らないことが伺える。
そんな目の前でカメリアがおやつを頬張っていることにスアムの意地に火がついた。
「できたら!!くれますよね?」
「もちろんだ」
本と睨み合ったスアムとおやつを美味しそうに頬張るカメリアを見たタキアは、カメリアの学生時代に戻ったような心境になった。
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