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別れの鐘
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実のところスアムの左手首に付けたのはただの防御補助ブレスではなく、防御補助兼監視ブレスだ。
こういうものはだいたい伴侶に贈る物。カメリアとて世間に出ていないとはいえ疎い訳では無い。
歩く石畳はそこまで綺麗ではない。見える町並みもどことなく錆びれている。けれど、活気に溢れている。
今日初めて知ったスアムの家。褒めれるほど綺麗ではないが、小ざっぱりしているのがいい。
カメリアが家の前に立つと、中からバタバタと音がしてスアムが気まずそうにカメリアの前へ立った。
意を決したように顔を上げ、しっかりと瞳を見てきた。
「あのっ!!酷いこと言ってすいませんでした!!」
勢いよく頭を下げるスアムの頭をカメリアは撫でた。さらさらな髪が指をくすぐる。
「お前はよく頑張ったよ。学校だって頑張れば首席にだってなれるくらいにお前は魔力が強い。だから後はお前次第だ」
「カメリア様……」
「見守ってるから、強くなってみせろよ」
「っ、はい」
「じゃあ、それまでお別れだ」
スアムが頭をあげようとしたので、手で強く押さえつけて頭を上げさせないようにした。今顔を合わせたらスアムをこの腕の中に閉じ込めてしまいそうで、怖い。
「お前は目の前のことに直球すぎるからもっと周りをよく見てから判断しろ。そうすればもっと先のことまで見られるようになる。オレからは以上だ。じゃあな、元気で」
移動魔法の陣を出すとスアムが顔を上げようとバタバタ暴れたが、カメリアは手を離さなかった。
「カメリア様っ」
「がんばれよ」
するりと手を離せば、勢いよくスアムが顔を上げるのが見えた。
真っ暗な空間に吸い込まれる中、手の甲に冷たい雫が当たった。
視界が真っ暗になり、瞬きをすればそこは馴染みある我が家だ。
「お帰りなさいませ」
有能な使い魔はオレの気配を逃さずすぐにやってくる。
「こちらで何かやることが?」
「いや、気が乱れただけだ。問題ない」
移動魔法を使う時は集中力を要する。魔力が強かれど到着する場所を明確にイメージする必要がある。
今回はイメージが乱れただけだ。
我が敷地で最も都に近い岩場に降り立ったのはやはり都に心残りがあるからだろう。
「…………スアム様はお帰りに?」
「なんでオレが持ち帰ってくるみたいな言い方なんだ?」
「いえ…………そんなことは」
「ふん。まぁいい。あいつが居ようが居なかろうが任務は遂行する。一応名誉ある仕事だからな手抜きはできない」
移動魔法の途中で当たった手の甲の雫の跡を舐めるとしょっぱかった。
祖父が亡くなる時も泣いただろうスアムをまた泣かせてしまった罪悪感が心をざわつかせる。
「カメリア様」
「なんだよ」
「スアム様を放置なさってきたのではありませんよね?」
「するわけないだろう?ちゃんと家に届けてきた」
「それで?」
「それ以外でなにかすることなんてあるか?」
「御祖父様がお亡くなりになられたのですよ?」
タキアの言いたいことは分かった。だが、責められるのは理不尽というものだ。
「オレはスアムに出ていけと言われたから出ていったまでだ。慰めるも何も無いだろう」
「そこは嫌がられても慰めるべきです」
「ったく…………オレはそこまで優しくない」
タキアの説教は延々と終わらなそうだったので颯爽と自宅へと帰り、書斎に引きこもった。
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