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空を飾る
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ドキドキする胸を落ち着かせようと、石畳をゆっくり登る。
温い風が体にまとわりつくが、木々の影がいくらか涼しい。
丘に着くと、ベンチにカメリア様が座っていた。
後ろ姿も絵になる方で、綺麗な黒髪が風に揺れて白いベンチによく映えた。
僕が近付いてもピクリとも動かずにジッと海を観ている。
「カメリア様、座っても、いいですか?」
「……………。好きにしろ」
「わかりました」
返ってきた声がどこか硬い。それに怒気も少し滲んでいた。けれど、そこで怯んでいては何も進まないだろう。
カメリア様の腕を取って広げ、脚の間に座った。
「………………。何やってんだ」
「座ったんですよ」
「それは分かるが」
「好きにしろって言ったじゃないですか。それに、僕は隣に座るなんて言ってないですよ」
観念したのか、ため息をついたカメリア様はぎゅうっと僕を抱きしめて、肩に顔を乗せた。
「……………悪かった」
「何がですか?」
「…………嘘ついたこと」
「……………。許さないけどいいですよ」
「どっちなんだよ」
「すごく傷つきました」
「………………。」
「でもラクス様に聞いて、嘘だって知ったので、もういいです」
「………………悪かった」
「反省してるならいいです。それに、僕もカメリア様に酷いこと言っちゃったので。ごめんなさい」
「……スアム。お前が好きな奴は誰だ?」
「?。カメリア様ですよ?」
「オレ以外にドキドキする奴とかいるのか?」
「いないですよ」
「これからは、オレ以外に触れられるのはダメだ」
「なるべくそうしていますけど……」
「誰かを見つめるのもダメだ」
「見つめること自体あまりないと思うんですが……」
「誰かから何か貰っちゃダメだ」
「僕は幼子か何かですか?」
「………………全部オレのだ」
「………………カメリア様も、僕のですからね。忘れないでください」
「忘れるかよ。お前より万全だ」
「それもそうですね」
晒された項に唇を付けられ、ビクッと体が驚く。
「カメリア様」
「本当にお前はオレを狂わす天才だな」
「ダメなんですか?」
「いや、悪くない」
手を取られ、指を絡めて握られる。
「誰の目にも触れないようにして、ベタベタに甘やかしたくなる」
「まだやりたいことたくさんあるので…」
「全く思い通りにならない」
「そりゃ、僕だって一個体ですから」
「それすら愛しいなんて……」
「……………。いきなりデレないでください。心臓に悪いです」
「スアム」
「なんですか」
「愛してる」
耳元で囁かれ、ぞわっと体が甘く痺れた。
「っ、わかってますっ」
「好きだ」
「知ってますっ」
なんだろう。この間のようにひどく甘ったるい雰囲気だ。
「カメリア様っ」
離れようとするが、僕を抱き込んでいた腕がもっとしっかりと僕を抱きしめた。
「だめ」
「っ!!」
この甘ったるい雰囲気のカメリア様の声を聞くだけでも、何故か僕が恥ずかしくなってしまう。どうしてだろう。
恥ずかしくて、嬉しくて、舞い上がってしまうような、ふわふわした感覚。
「まだ、オレの中にいて」
「………。はい」
しばし手持ち無沙汰で、絡んだ指をにぎにぎしていると、フッとカメリア様が息をついた。
振り返ると、いつも通りのカメリア様がいて、甘い雰囲気はどこへやら。なんだか寂しいような勿体ないような。もう少し味わっていたかったような。きっとこれが名残惜しいというのだろう。
「カメリア様」
「なんだ?」
「もう一度甘えたモードになってください」
「エロいキスしてくれたらなってやってもいいぞ」
いつもの意地悪い笑みを浮かべながら余裕綽々な態度。
「っ、やっぱりいいですっ!!」
「なんだ、つれないな」
ぐいっと顔を横に向かされ、カメリア様の唇が僕の唇に重なる。
きょとんとしてる間に、カメリア様は僕を隣に座り直させ、ぐいっと伸びをしてから立ち上がって丘の先へと向かった。
そっと唇に触れてみる。
物足りないと思うのは、僕が欲深いからだろうか。
疼く体と、欲しがる心が、暴れ出したがっている。
前を向けばカメリア様が何かをしていて、トコトコと駆け寄ると、ニッと珍しく楽しそうに笑って僕の肩を抱いた。
「ちゃんと見てろよ」
パチンと指を鳴らすと、海からひゅるるっと光る何かが、魔界の夏特有のシャンパンブルーの空に、パァンと光り輝いた。無数に花開くそれは色とりどりで、観ていて飽きない。
「カメリア様…これは…」
「水と光の魔法だな。海水を上で散らして、光で色付けと発光。なかなか優美だろ」
「すごい、ですね。綺麗です……」
無言で空を見つめていると、ずいっと視界をカメリア様で埋められた。
「オレを見ろ」
少し拗ねたような言い方だったので、自分でやり出したことなのに、とクスリと笑ってしまった。
そっと重なった唇にどうしようもなく嬉しくなって、きゅっとカメリア様の服を握り、もっと、とおねだりをするが、すごーい!!という声に我に返る。
ぞろぞろとだんだん集まって来た。
「スアムー!!」
カロエが楽しそうにこちらへ駆け寄ってくる。
「不思議なものが空に打ち上がってるから何かなってみんな集まっちゃったよ!!」
それを聞いたカメリア様がムスッとしてしまった。
ぽんとカメリア様の肩を叩いたのはリフラ様だった。
リフラ様は仕事が忙しいという理由で来れないのでは?と思ったが、カロエが責めないところを見るとどうやら正当な休日らしい。
「まったく!お前は器用だよな!!」
いいネタ見つけたとでも言いたげな目だった。
「お前に言われてもな。それにこれはスアムに観せるためのものであって他の奴らに観せるためのものじゃない」
打ち上がらなくなると、残念そうな声があちこちで聞こえる。
「カメリア様。皆で観ましょう」
「……………。はぁ、お前がそう言うなら……」
再び打ち上がり始めるとみんな楽しそうに観ている。
暫くすると、変わった形が出てきたり、大きなものが出てきたり、色んな音もついてお祭り騒ぎだ。
こうして、騒がしくも楽しくベストルド家主催の海水浴の幕は閉じたのである。
後にこの魔法は、ウォーターライトペトゥルと命名され、略してペトゥルと言われるようになった。
フェスティバルなどでよく使われるようになり、魔界の祭りがより一層華やかになったのであった。
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