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ー衛side21ー
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海翔から焦った声でヒロくんが倒れたと連絡があった。急遽、予定のミーティングもキャンセルして、車で病院へ向かった。もうその頃には、海翔が同席で診察を受けている途中だった。
ヒロくんは、僕の予想通り脱水症と診断され、直ぐに点滴が始まった。それだけなら良かったのだが、貧血や低栄養症状も強く、しばらく経過観察の入院が必要と言われた。……こうなる前にもっと早く連れてきてあげるべきだった、と自責の念が積もる。
「……せんせ、自宅療養じゃ、ダメですか。」
「ヒロくん……。」
「ダメだ。君の症状からして、強い摂食障害が起こっている。これは段階を踏んできちんと治療しないと命の危険性もあるんだ。……原因をしっかり対処して、治療していこう。」
海翔と僕は身分を医師に聞かれ、ただの知り合いだと説明するしか無かった。親御さんに今すぐ来てもらってくれと言われ、1番恐れていた事実にヒロくんと僕は顔を見合わせた。ヒロくんの顔は、露骨な程に血の気が引いていくのがわかる。
「……父親は、忙しくて来れないと思います。お金は、何とかしますので。」
「未成年だからそういう訳には行かないんだよ。親戚の人でもいいんだけど……。」
「俺には……父親しか居ません。」
そう言うヒロくんの声はかなり震えていて、俺はすかさず彼の背中を優しく摩った。海翔も状況を把握したのか、力強くヒロくんの手を握る。
「ヒロくん。僕から一度お父さんに電話をかけてみようか?」
「やめて……お願い。それだけはダメ。連絡するなら家に帰る。」
「ダメだよヒロにぃ……そんなんじゃまた倒れちゃうでしょ?話だけでもしてみようよ……」
「……俺、帰る。もう大丈夫だから。」
ヒロくんは急に、あんなにも恐れていた家に帰るなどと、支離滅裂な発言を始めた。その様子に医者も見兼ねたのか、再びヒロくんに問いかけ始める。
「君……父親から暴力を受けてないかい?もう何十年にもかけて出来た古傷が背中にいっぱいある。煙草の火傷跡だってあるだろう。」
「……ちが、う。」
「……君からは話せないか。これは警察にも相談が必要かな。」
「お願いやめて!!!!おね、おねが……だから……やめ、て……っ」
ヒロくんはその言葉にパニックを起こしてしまい、点滴の針を腕から引き抜こうとしたため、慌てて海翔と2人で取り押さえた。弱っているヒロくんに抵抗する力はなく、直ぐに揉み合いは終わった。
「不快な思いをさせてしまってすまなかった。一度一人になってゆっくり休みなさい。付き添いの方2人はもう一度診察室に来てください。」
これ以上、ヒロくんを刺激するのは危ないと感じたのか、医者もヒロくんに言及することを辞めた。呆然と点滴を見つめるヒロくんを置いて、病室を後にした。
「……あの様子じゃ、父親に合わせるのは精神的にかなり危険かもしれないね。とりあえず学校と警察に今回の一件を相談してもらえないかね?本人は過剰に嫌がっているが仕方ない。看護師の巡回も多めにして様子を見よう。」
医者曰く、家庭内暴力の背景には“共依存”という問題が潜んでいるという。それは被害者側も、自分がいないとダメ、加害者がいないと生きていけないと、現状を歪んで認知する心理現象だそうだ。……援助交際をしていた時も、警察に相談することは極端に拒否していて、その話題を持ちかけられないほどだった。だけど、これを放っておくと取り返しのつかない事になりかねない。ヒロくんには申し訳ないが、本人に内緒で学校と警察側に相談の連絡を行った。
「海翔……後は他の人に任せよう。大事な友達を、僕が助けてあげられなくてごめんね。」
「たろにぃは悪くないよ。……ひろにぃが元気になったらまた3人で会おう?」
「……ああ。」
事情を全く知らない、ヒロくんのパートナーの“片井くん”のことがかなり気にかかったが、とてもヒロくんに連絡先を聞ける状況ではなかった。学校に連絡すれば何かしら本人の耳にも入るかもしれないと淡い期待をし、病院を後にした。
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