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ー片井side22ー
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柳原の連絡が途絶えてから2日が経過した。元援交相手のサラリーマンの所にいる、というかなり曖昧な情報だけ知り、勉強など手につくわけがなかった。結局、あの金髪頭の学生も、その後この校舎で見かけることは無くなり、真相は藪の中だ。あまりにも連絡が無いようであれば、サラリーマンの会社に押し掛ける所まで考えていた。
ホームルームが始まる前に何故か急いだ様子で黒澤先生は教室に入ってきた。表情はかなり深刻そうだが、何かあったのだろうか。
「すまない!急遽用事が出来た!数学の授業は自習で頼む。ホームルームは副担任に頼んであるからよろしくな!むやみに騒ぐんじゃねーぞー?」
黒板に大きく“自習”とチョークで文字が書かれた途端、教室内はどんちゃん騒ぎになった。耳障りな声に表情を歪めていると、目が合った黒澤先生に大きく手招きされた。
「……緊急事態だ。柳原が入院したらしい。」
「入院!?……柳原の容態は!?どこに居るんですか!!!」
「お前も知らなかったんだな。事情は柳原の知り合いの衛って人から全て聞いたんだが、話せば長い。……お前も来るか?受験前にサボりを勧める教師もどうかとは思うが。」
「行きます。」
あまりに急な展開に、頭がついていかない。黙って黒澤先生について廊下を歩いていると、校長先生は警察署に事情を聞きに行くと言っており、かなり大事な雰囲気だということはわかった。俺は体調不良で家まで送ってもらうということにし、黒澤先生の車に乗り込む。
「落ち着いて聞いてくれ。インフルエンザってのはアイツの嘘だった。もっと事件性のあるでっけぇ問題が絡んでる。」
「え……。」
「……柳原は、父親から酷い暴力を受けているらしい。それもずっと昔からだ。今回その衛って人の家に居たのは、父親に殺されかけたのが原因で匿ってもらっていたようなんだ。精神的にかなり追い詰められて、摂食障害も起こしてると。」
元交際相手から暴力を受けていたことは白鳥先生から聞いていたが、まさか父親もだったなんて。……あいつの口からそういった話は1度も聞いたことがなかっため、かなりショックが大きい。
「きっと柳原の事だ。衛って奴に頼んだのは、受験前のお前に勘繰らせて巻き込みたくなかったんだろう。……そこは分かってやってくれ。」
昨日までは、なんで俺に頼ってくれないんだとか思っていたけど、これで納得した。……俺はまだ子供だ。致し方ない。
ただ、予想よりも遥かに大変な事態になっており、心臓が壊れそうなほどバクバクと脈打った。その様子に黒澤先生も心配してくれたが、俺は慌てて深呼吸をし、話を続けてもらった。
「だがもっと問題なのは、柳原が父親について通報することを頑なに拒んでいる事だ。最も重要な本人証言が得られなくて、警察も難渋しているらしい。」
「どうして……まさか、父親に脅されているんでしょうか。」
「いや……そんなシンプルな問題じゃない。あいつはそんな危険な親父の元に帰ろうとしたらしい。あいつにとってはたった一人の家族で、そこが居場所だと認識しているんだ。……父親を失うことを恐れてる。」
「そんなことって……。」
援助交際をすることで家を避けていたとしたら、俺と付き合うことでその逃げ場を失い、危険な状況にしてしまったのではないかと思うと、震えが止まらない。だけど何れは向き合っていかなければいけない問題。……どうにかして俺が居場所にならなければ、と使命感に駆られた。
「理解に苦しむのも無理無い。そういう事で、心身ともに危険な状態らしい。10分置きに看護師の巡回を付けてる程なんだ。確実にいつものあいつじゃない。……それでもあいつに、会えそうか?」
「……当たり前です。お願いします。」
「柳原の今の居場所はお前だ。それをしっかり伝えてやってくれ。」
黒澤先生はエンジンをかけると、そのまま病院まで車を飛ばした。
ーー病院に到着し、予め聞いていた部屋に黒澤先生と向かうと、やけに慌ただしい看護師の声が複数聞こえた。
「柳原……っ!?」
恐る恐る部屋を覗くと、そこに柳原の姿はなく、無造作に抜かれた点滴の針から、ポタポタと床に薬品が落ちる音が響いていた。
「どういうことですか!?説明してください!!」
「喉が渇いたと言うので急いで水を取りに戻ったのですが、その隙に……申し訳ございません!!病院内ではないと判断し、捜索願も出しました。」
黒澤先生は焦った様子で髪を掻き乱し、駐車場の方へと引き返した。
「あいつ、家に帰ったに違いない……。まずい……早くしねぇと……。」
「……っ、柳原。頼む、無事でいてくれ。」
車内に緊迫した空気が流れる。だが、こういう時に限って悪事が重なるのだ。
「……柳原の家の方面、交通事故で、2キロ先まで渋滞。」
くそっ、と苛立った様子でハンドルを殴る黒澤先生。俺も焦燥感で気がおかしくなりそうだ。……だがこんなに悠長にしている時間はない。
「俺、こっから走って行きます!!黒澤先生は後から来てください!!」
「片井!?ま、待てよ!!!」
黒澤先生は慌てて止めようとしたが、俺はその手を振り払った。助手席から降りると、力の限り走って柳原の家まで向かう。
……頼む、どうか間に合ってくれ。
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