アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ー柳原side24ー
-
本当に幼い頃の夢を見た。親父が手に負えなくなった時、決まって母さんとふたりで屋根裏部屋で息を潜めたんだっけ。……薄い明かりの中、俺は母さんの手を強く握って、話し始めた。
「母さん、どうして父さんは痛いことばかりするの?」
「ついカッとなってしてしまうけど、お父さんに悪気はないのよ?本当は愛してくれてる。」
「痛いの我慢すれば、みんなでまた仲良く遊園地に行ける?」
「……そうね。いつか行きましょうね。」
その願いを叶えられない事は、俺が一番知っている。……段々と遠くなる母さんの声を追いかけるように手を伸ばすと、俺よりも大きくて頑丈な手が、優しく握り返してくれた。
……俺が大好きな、この手は。
「…ひろ…真尋。俺だ、わかるか?」
「……守。」
そっと目を開けると、入院していた部屋のベッドで両手を拘束されていた。それでも不安にならないようにと片井くんは、何度も何度もその手を優しく撫でてくれる。俺はまた静かに涙を流した。
「……酷い目にあったね。もう大丈夫だからね。幾つか質問をするから、答えてくれるかい?」
「……はい。」
医者は病院から抜け出したことを責めることなく、俺の名前やここの場所などの質問をした。その間も、片井くんは手を離さずに居てくれた。
「とにかく今はゆっくり休みなさい。焦らなくていい。全部ゆっくり処理していこうね。……何かあったらいつでも呼んでくれ。」
「ありがとう、ございます……。」
問診は特に異常なしとの事で、医者は病室を後にした。
見舞いには他にもいろんな人が来てくれていたようで、花束や俺の大好きなお菓子、正義のジョッカーのDVD……は海翔かな?こうして見ると、俺は本当に沢山の人達に恵まれていたんだなと思う。片井くんは、俺が見やすいように花束を花瓶に移してくれた。いい匂いがする。
「片井くん、学校……は?」
「ほらまた、俺の事だ。……もういい。そんなもん今は……どうでもいい。」
そう言ってまた悲しそうな表情をすると、手の拘束具を外して、強く抱き締めてくれた。
「俺な、生まれて初めて……怖いと思った。」
「……えっ、片井くんが?」
「ああ。……お前を失うことが、凄く怖かった。生きた心地がしなかったんだ。もう俺は、お前が居ないと、生きていけない。」
「はは……そんな、大袈裟な……。」
「茶化すな。俺は本気だ。」
片井くんは真剣な面持ちで俺の目をじっと見つめる。だけど、その目は父親と違って、優しく温かみのあるものだった。
「片井くんごめんね。俺、あんなどうしようもない親父でも、たった一人の家族だったんだ。独りになるのが、怖かった。」
「……気持ちはわかる。俺も母親を無くした時、本当にやるせない気持ちになった。俺は父親や郁が居たけど、俺も1人だったらきっと同じ気持ちだったと思う。何も、おかしな事じゃない。」
だからもう謝るなと、片井くんはキスをした。
「……けどもう、お前があんな酷い目に遭うのは散々だ。俺の寿命が縮む。相手によっちゃ殺めかねない。」
「そ、それは大変だ……。」
「だからもうお前を離さない。俺のために……2人の幸せのために、生きてくれ。」
まるでプロポーズのような口説き文句に俺は耐えきれず、声を挙げて泣き叫んだ。どれくらいの時間泣き続けたかは分からないが、目は腫れて声も出せなくなるまで、片井くんの腕の中にいた。
俺が愛を向けた相手には全て裏切られてきたけど、それももう今日でおしまい。この手の中にある幸せだけは、もう二度と離したりはしないと心に誓った。
ーー俺の本当の居場所は、此処だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 26