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16(流血あり)
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「だらしない男」に降格となってしまったレオンも、その内、女をとっかえひっかえすることをやめ、ようやくステディを作った。
アクサナは週に1回だけ歌いに来るシンガーだ。
細い体から出る似つかわしくない低音と声量にはファンも多い。
ジャズはアドリブが見せどころだが、レオンと相性がいいらしく、良くついてくるし、うまくリードもする。
彼女とレオンが恋仲になるのは自然の成り行きだった。
それでもレオンはクレトへの配慮を忘れることは無かった。
アクサナとデートへ行ってもクレトを夜ひとりにすることは無かったし外泊もしなかった。
クレトの事情をレオンから聞いていたアクサナは、「ちょっと妬けるわね」と冗談めかして笑って許してくれた。
大人の付き合い方じゃないなとレオンは詫びるように肩をすくめたが彼女は「仕方ないじゃない」とキスしてくれた。
だから、その点は甘えることにした。
その分、デートは楽しませた。
…つもりだった。
アクサナは自分でも納得していると思っていた。
我慢と言ってもわずかなもの。
最初は小さく感じる程度。
恋人が大事にするものは大事にしたいと思うもの。
しかし、それも積もり積もれば限界は来て崩れてしまう。
クレトの事情は分かる。
だからレオンの行動も仕方がない。
でも、もっと自分に時間を割いてくれてもいいじゃないか。
だってクレトは、もう子供じゃない。
そんなこと考えちゃダメ。
クレトは声を、まだ失ったままなのだから。
可哀想なんだから、少しくらい我慢。
譲ってあげなきゃ。
私は大人なんだから。
でも。もっとレオンと会う時間が欲しい。
レオンの時間が欲しい。
クレトが奪ってる時間を奪いたい。
クレトが羨ましい。
妬ましい。
恨めしい。
クレト、いなきゃいいのに。
はっと気付くとアクサナの手にはナイフが握られていて、刃先はクレトの皮膚の下に隠れていた。
アクサナは無言で後ずさるとクレトを放置して玄関から飛び出していった。
腹に刺さったナイフを見て、焼けるように熱いのはこれが原因かとクレトが納得する。
案外自分が冷静なのに驚いた。
レオンに連絡しなきゃ-自分のスマホを探して数歩歩いたが痛みに動けなくなって床にずるずるとしゃがみ込む。
呼吸の度に痛みが増して、座っていることもできなくなり、クレトが崩れるように横たわったところで玄関の開く音がした。
「ご所望のアイスクリームありましたよ~。ったく、2人して俺をパシリにすんなよなぁ」
のんびりとそんなことを言いながらスーパーの袋を抱えたレオンがリビングに入るとローテーブルの陰に足先が見えた。
「クレト? んなとこで何やってんだよ」
レオンの視界にクレトの膝が入り、そして赤く染まった服が見えた。
「クレト!」
目は合うが返事はしない。
警察を呼び、クレトを病院へ運び、レオンはERの待合室の端のベンチに脱力するように腰を下ろした。
警察は強盗を疑ったが部屋は荒らされていなかった。
アクサナがいないことから、彼女が誘拐されたのではとレオンは心配した。
警察はアクサナを探すと言っていた。
レオンは彼女も心配だが、それよりもクレトの方がショックだった。
何も悪いことはしていないのに、なぜクレトばかりがこうも度々、犠牲者にならなければならないのか。
声が出ないというだけでハンデなのに、それを理由に、もしくはそこに付け込まれて暴力を受ける。
それを守ってやれないのも悔しかった。
出来る限りのことはしてきたつもりだが、まだ足らなかったのか。
腹が立つのは事実だが、誰に怒りをぶつけていいか分からない。
それが余計に腹立たしくて、レオンは歯噛みした。
かなり待たされた後、レオンは呼ばれた。
首からネームタグを下げた黒人の女性はクレトを担当した医師だと名乗った。
薄いブルーグリーンのVネックは、少しサイズが大きいように見える。
頓着しない性格に見えるそんな様子は敢えてなのだろう。
そして、穏やかな表情は相手を落ち着かせるために彼女が身に付けた習慣だろう。
しかし、レオンにはあまり効果が無いようだった。
彼女に連れられて、いくつかの画像を見せられた。
幸い太い血管ははずれていた。出血量も多くはない。輸血は要らない程度だ。
彼女がそう説明するのを、レオンはようやくの思いで聞いていた。
意識は目の前の彼女よりクレトへと向いてしまう。
レオンは何とか集中しようと頷いた。
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