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九十九昴は、強制的に落とされた眠りの中で、夏目史隆に問いかけられた最後の言葉の理由を探していた。
ー何故…直孝さんを恨まないんだろうか…
6年前の、あの出来事が、夢の世界で甦る。
確かに、九十九昴の目の前で両親を手にかけたのは、夏目直孝だ。
躊躇なく、刺し殺した。今でも鮮明に思い出される光景は、畳に広がる血の海と、そこに力なく目を見開いたまま横たわる両親の姿だ。
夏目直孝の手には、鋭利な刃物が握られており、いつも眩しい程に真っ白で、皺一つ無いワイシャツが真っ赤に染まっている。
いつも優しく頭を撫でてくれていた掌も、血で赤く染まっている。
4年間、共に過ごした日々を思うと、夏目直孝がこんな事をする人間だとは、到底考えられなかった。
自分に刃物を向けている赤髪の男が、夏目直孝に、この様な行為を強要しているのではないか。
夏目直孝という人間は、何よりも九十九昴を大切に考え、守って来てくれた。そんな人物が、九十九昴を守る為に、両親を手にかけたのだとしたら、納得がいく。
何よりも大切な人の為に、その人の大切な人を奪う事さえ、その人に恨まれる事さえ構わないと考える。
それが、4年という長い歳月を共に過ごした九十九昴が知った夏目直孝という人物像だった。
実際その通りに、九十九昴だけは、いや、九十九昴を助けてくれたではないか。
「約束だ。」
彼はそう言った。九十九昴は殺さないという約束をしていたんだ。
夏目直孝は、九十九昴を守る為に九十九昴の両親を殺したと、そう確信させてくれた一言だった。
そして、後から夏目直孝からの連絡を受けて駆けつけてくれた藤城悠。
彼も、夏目直孝が九十九昴を守ろうとした証拠であった。
ー直孝さんは、俺を守る為にあんな事をしたんだ。恨める筈が無い…
恨むべきは、それを強要した夏目史隆だ。
眠りの中で出た答えに、九十九昴はあることに気づいた。
ーなんだ…。直孝さんを恨まない理由…
俺自身がかわいいからだ………。両親よりも俺を守ってくれた人を恨めないなんて、自分が何よりも大切だって思ってるって事じゃないか…
最低だ…
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