アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
会長視点。
-
「あなた…、もしかして、特待生入学の生徒ですか…?」
この時の私には尋ねるという選択肢しか浮かばなかった。
どうしても、彼のことが気になって仕方がなかった。
一体、彼のいつもの姿は何であるのか。
一体、彼は何に怯えているのか。
…本当は、誰なのか…
錯綜した頭で混ざり合った疑問について思索してみても、答えが出ないどころか寧ろ更にその疑問が膨れ上がって留まることを知らない。
「どうして会長が知ってるんですか…?理事長が、話したんですか」
二重の大きな瞳をしばたかせながら、桜川がそう言う。
今まで意識して目を合わせたことはなかったけれど、こうして彼の瞳を覗き込むと、何故だか胸の奥底が鋭利な刃物で抉られたかのように痛むことに気がついた。
そして次に感じたのは「この茶色の瞳は偽りだ」という確信だった。
高貴な木材を、コンクリートで塗り固めてしまったかのような違和感。
自然のものではなく、作為的に創造されたかのような。
「以前に理事長で資料に紛れていたのを少しだけ見てしまったんです。目にしたのは顔写真だけだったのですが」
「…そう、ですか…」
悲しそうな顔だった。
自分が発した言葉によって彼を苦しませているのか、と思うとどうしようもない気持ちに陥った。
もう、泣かないで欲しい。
無理をして、自分を繕わないで欲しい。
けれど、私はお願いだから、と心に強く強く願うことしかできない。
あの特待生、小坂を見つめる桜川の表情は、今すぐにでも消えてしまいそうなものだった。
秋という人物の名を聞いた時の悲痛な表情。
慟哭して、涙も枯れ果てたかのような、そんな。
一体彼は何を抱えているのか、彼のことを知らない私は何をどうすることもできない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
80 / 174