アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
会長視点。
-
桜川を助けたい、と思った。
よくよく考えてみると、彼はいつも笑ってばかりで人間らしさが欠如していたのではないだろうか、と思う。
その外見に反して、きっちりとまとめられた書類や一寸の狂いもない丁寧な字体が時折私を驚かせていたのに。
そのことに関して深く考えることはせずに、桜川はチャラ男だ、と勝手にイメージを決めつけていた。
今まで表面上でしか接してこなかったことに、改めて気付かされる。
「…お願いだから、これからも今まで通りに俺と接してください。そうじゃないと俺、どうしようもなくなる…全部壊れて、ぐちゃぐちゃになってしまうんです」
そう言いながら、彼は泣き笑いを浮かべた。
「…こうしていないと、駄目なんですよ、俺は」
…胸が、痛い。
このまま張り裂けてどうにかなってしまう程に、苦しくて、苦しくて、痛い。
胸に渦巻くこの感情の名前を私は分かっている。
けれど、それを認めてしまうのはあまりにも浅はかで、愚かで。
彼に手を差し伸べて助けることが私の役目のはずなのに、皆の指標である会長であるはずなのに…、私は。
今まで捨ててきた感情が再びピースを繋ぎ合わせて、心の中で組み立てられていって。
零れて拾い集めることが不可能になった“私個人”の感情が、彼を目の前にすると一瞬のうちに舞い戻ってくる。
「私はあなたに…、無理して欲しくないんです」
これ以上の言葉を考え出すことは、不可能だった。
何故なら。
いつものように冷静な私でいられない理由も、滲み出して止まらない綺麗さにこれ程動揺している理由も、分かってしまったから。
この感情の名が「人を好き」だということなのだ、確実に。
一瞬で感情の波に呑まれ、恋に落ちるということなのだ。
嘘に決まっている、と一蹴しても、すぐさま跳ね返ってくる、真実の。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
81 / 174