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満月の夜空は海がいつもよりきれいに輝いて見える
「さすがの冬矢でもギブか?」
「何の話だ?」
「まぁいい、吸うか?」
差し出されたタバコを受け取り火をつけた
深く吸い込み吐き出しながら氷龍に尋ねた
「あいつらは何者なんだ?」
「俺に聞くとはね」
「一番早いと思ってね」
「確かに」
「朱雀は腕のいい獣医だ、ここでは人間を診ている」
「成程」
「凛の為なら殺しもする、あいつはいつも冷静で的確に仕留める・・・まぁ、的確に素早く殺してもらえればの話だが場合によっては残酷な殺し方をする」
「凛がカギか?」
「だろうな、普段は大人しい人間だ」
「じゃ・・・」
「凛は優しい心を持つ人間、しかし動物が絡むと豹変する、だからあいつらの事を知っているやつらは決して近付こうとはしない」
「成程」
「そして面白い特技がある」
「特技?」
「信じる信じないかは別として・・・俺は信じる」
「内容が分からない以上何とも言えないな」
「凛は動物と会話が出来る、いや会話と言うか動物の心が読める・・・説明が難しいが理解しろ」
「・・・・・・・・・・」
氷龍は信じているのか?
と言う事は本当に?
「前にカラスが大発生して困り果てていた事があった」
「カラス?」
「ここは最高の餌場だろ?あちこちに死体が転がっているし」
「そうだな」
「しかしカラスが増え続けるのも困る・・・しかし殺しても殺しても減らないのを見て頭を悩ましていた俺に凛が言った」
「お前の正体を?」
「動物に聞いたらしい・・・それだけでも信じるには値する」
「確かに、それで凛は何と?」
「カラスと交渉する代わりに成功したら羊を飼わせて欲しいと」
「羊?」
「ここの気候で育つ動物だからだろ?そして凛は退屈しのぎに羊の毛で見事な毛糸を作り上げる為」
「それで?」
「最初は疑い半分で承知した」
「成功か」
「見事に次の日からカラスは消えた、そして毎年毛糸を作り売っている」
「売る?」
「何故か凛の作る毛糸は高値で売れるんだよ、俺はその仲介料を頂くだけ」
「成程」
「そして今度はイノシシが敷地内に入り込んでどうしても見つける事が出来なかった」
「イノシシぐらいいいんじゃないのか?熊も出そうだし」
「殺されてバーベキューでもされたらたまったものではない」
「確かに」
「すると今度はヤギが欲しいと言って来た、俺が頭を悩ませていた理由も知っていた」
「それも成功したわけか」
「ああ、そして今度はヤギの乳でチーズを作った・・・もちろん高値で取引されている」
「おとぎ話にありそうな話だな」
「そう言う事が数回あった以上信じるしかないだろ?」
「まぁな」
「そして今では立派な牧場にまで作り上げたと言う訳だ」
「しかし凛はここに牧場を作りに来たわけでは無いだろ?」
「ああ、彼らも望んでここにやって来た・・・その理由も普通の人間では理解できないようなものだ」
「望んで来れる場所ではないだろ?」
「朱雀が資産家なんだよ」
「成程・・・その理由は?」
「黄金のイルカを見る為と言っていた」
「それこそおとぎ話だろ」
「いや、俺も聞いた事がある話だ」
「イルカか?」
「ああ、この島でしか見る事の出来ない金色に輝くイルカだ」
「本当にいるのか?」
「いるから来たんだろ?」
「・・・・・・・・・」
「俺が知っているのはそれだけだ」
「イルカの為にねぇ」
「ここにまともな奴らは無に等しいと言う事だ」
「あれは?」
ふと暗闇を歩く人影に気付いた
こんな時間に誰が?
「凛と朱雀だ」
「いいのか?」
「ああ、別に問題を起こすわけでもないし逃げるつもりもない奴らだ」
「成程」
「海岸への散歩は許可されている」
「しかしイルカとはね」
「お前に出来るか?恋人が幻のイルカを見たいと言っただけで財産を全て凛の為だけにつぎ込み、仕事を辞めてこんな刑務所に来る事が」
「どうかな・・・考えた事も無い」
「人間は自分の事しか考えない動物だ、俺はそう思っている」
「確かに」
「しかしあいつは違う、朱雀の凛に対する愛情の深さに驚いていると言うのが事実かもな」
「・・・・・・・・」
和海の愛情にも恐れ入ったがそれ以上の人間が他にもいたとはね
「愛情ね・・・忘れていた言葉だな」
「楓もお前も憎しみの為にここへ来たから仕方がない」
「ところで氷龍、一つ確認しておきたい事がある」
「楓の事か?」
「ああ」
その質問に対する答えを見つける間、氷龍はしばらく無言で穏やかな海を見つめていた
「フェアーではないな」
「どう言う事だ?」
「では尋ねるが、お前はどうなんだ?楓ではなく燕羽に対してだけ答えろ」
「・・・・・・・・・」
燕羽に対して?
言葉がすぐに見つからない
「好きなのか?それとも単なるお節介か?」
「今はまだわからない、でも・・・」
「でも、まともな人間にしたいと思っている」
「あいつがここに来た理由がわからない限りどうする事も出来ない」
「それが答えと言う事か」
「えっ?」
「理由がわかればお前は動くと言う事、それが燕羽に対しての気持ち」
「俺がここへ来た理由は・・・」
「それは楓にやらせろ、楓は俺が護る」
「お前」
「それが俺の答えだ」
「・・・・・・・・・・」
俺は和海に頼まれてここへ来た
でもその役目を氷龍が請け負うと言う事か?
確かに最近の俺は燕羽の傍にいる事が多いような気がする
「いい事を教えてやろう、これはサービスだ」
「いい事?」
「燕羽と楓の弟は同級生」
「えっ?」
「しかし弟は燕羽を単なる友達としか見ていなかったんだろう、燕羽も気持ちを隠していたのかも知れない」
「・・・・・・・・・・」
「そしてあの事件が起こった・・・後悔しているのかも知れない、告白しておけば殺されずに済んだのかも知れないとね」
「断られたら同じ結果だろ?」
「そうだとしても燕羽の背負うものは多少違っていただろ?」
「どうかな」
「フラれれば気持ちも多少は違うだろ?しかし思い続けていたのに顔も知らない奴にさらわれて殺された、燕羽の気持ちを取り残したままね」
「闇が深い・・・と言う言葉はこういう時に使うべきなのか?」
「楓はその事を知らない、黙っておけ」
「ああ」
ぼんやり浜辺に立つ二人を見つめた
何をするわけでもなくただ海を見つめる二人
その時
「えっ?」
「凛が呼んだんだ」
「イルカをか?」
「ああ」
嘘だろ?
イルカが暗闇の中集まって来た
まるで深夜のイルカショーを観ているような気分だ
だがこの目で見た事に偽りはない
今起きている事が事実だと言う事
満月の道を飛び越えるイルカ達
それは凛を歓迎しているかのようだった
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