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今日は羊たちの散歩
のんびりした時間だけが過ぎて行く
初めての二人きりの時間
でも、時折脳裏に浮かぶ声
(早く帰らなくてもいいの?)
どうしたんだろう俺
こんな生活が楽しいと思い始めているみたい
早くあいつを殺して和海の元へ行くべきなのにね
「考え事は馬鹿らしいよ」
「そうだね」
「迷いがあるみたいだね」
「迷い・・・俺が?」
「もちろん、殺しに迷いはない・・・あるとしたら心」
「・・・・・・・」
あいつを殺す事に対しての迷いなど無い
じゃ、どうして早く殺さないのかと言う答えがその迷い
「楓が自分で決めればいい」
「・・・・・・・・・」
「時間なら腐るほどあるでしょ?」
「うん」
ずっと考えないようにしていた事だった
俺は氷龍に惹かれ始めている
認めるのが怖かった
和海を裏切るのが怖かった
まだ答えが出ないまま宙をさまよっていた
「話を変えようか」
「うん」
「ライオンが獲物を仕留めるでしょ?」
「すごく話が飛んだね」
「まぁね・・・仕留めた獲物を最初に食べるのはボスなんだけど、何を食べると思う?」
「想像がつかないけど・・・ロースとか?」
「それは人間の場合でしょ?しかももう肉になってる」
確かに
「内臓はいやかも・・・」
「そのいやな内臓、ボスは胃袋を最初に食べる」
「そうなの?」
「肉食のライオンは草を食べる事は出来ない、でも必要な栄養でもある」
「うん」
「その草が詰まっている胃袋を食べて栄養を補うんだよ」
「賢いね」
「ロースを食べるのは下っ端かな」
「俺は下っ端だね」
「人間だから内臓を食べるなんて想像出来ない、何故なら人間は栄養全てを食べる事が出来るからあえてまずいものを食べる必要はない」
「確かに」
「焼肉は別だけどね」
「焼肉でもホルモンはいやかも」
「うん」
「タンも無理かも」
「ようするに厳しい条件下で生き抜くのは大変な事」
「そうだね」
「人間は恵まれてると思わない?」
「思うね」
「でも、そんな人間でも勝てないものがある」
「何?」
「病気」
「凛は病気なの?」
「違うよ」
「安心した」
「でも俺は、化学なんて待つ時間は無い・・・迷信だと言われてもそっちを選ぶ」
凛の会話が理解出来ない
会話はわかるけど意味がわからない
迷信って何だろう
「昔聞いたんだ、海で遊んでいた時にね」
「うん」
「イルカが教えてくれた・・・黄金のイルカはどんな願い事でも叶えてくれる、だけど出会う事は奇跡に近い」
「そのイルカは本当にいるの?」
「だからその辺が迷信って事、でも俺はいると信じている」
「いるよ、凛が信じているのならいる」
願い事は何だろう
そこまでして叶えたい願いは何だろう
でも、俺は何も言わず空を見つめた
「楓らしいね・・・必要以上に入り込まない」
「そう?」
同じように寝転がって空を見つめる凛
一呼吸おいて話を続けた
「黄金のイルカの話をいろんなイルカ達から聞いたんだ・・・そして俺はここに来た」
「うん」
「1年待った・・・でも残された時間は少ないから」
「何か俺が手伝える事があればいいのに」
「この話をしたのは楓が二人目」
「そう」
「もう話す事も無いけどね」
ふと口から出た言葉
どうしてなのかはわからない
「大切な人の為?」
「・・・・・・・・・」
「大切な人は必ずしも一人とは限らないと思うし」
「勘が鋭い」
「ごめんね、偶然だけど」
「そうだね、大切な人は一人とは限らない・・・身内かも知れないし友人かも知れない」
「愛する人は傍にいるから友人、身内がいるのなら殺しは出来ない」
「さすがだね」
「命を懸ける人なんでしょ?」
「うん」
「じゃ、凛の判断は正解」
「・・・・・・・・」
「ん?」
「ううん・・・嬉しくて・・・みんなバカにするような事だから」
「バカにする奴らなんかどうでもいいでしょ?」
「だね」
「でも逆に話さなければバカにもされない」
「そう言う事」
「凛は話してもバカにしないと思う人間に打ち明けてくれた」
「そうかもね」
「光栄です」
「クスッ」
「雨が降りそう」
「戻ろう」
羊を集めて牧場に戻ったと同時に激しい雨が降り出した
「すごい雨」
「音もすごい・・・レのシャープ」
「笑わせないでよ」
「ところで朱雀は?」
「今日は街に戻っている」
「大丈夫?」
「楓がいるから」
「うん」
「明日には戻ると思うし」
「今夜は?」
「どうしようかな、雨で橋が沈んでるかも知れないし」
「じゃ、今夜はここでお泊り会」
「楽しそうだね、食べ物はあるし」
「凛は俺が護るから大丈夫」
「ありがとう、でもこの小屋には誰も入れない」
「どうして?」
「それはね・・・」
小屋の棚に置かれていた赤ワインをグラスに注いだ
本当に何でもあるんだ
「覗いて」
グラスの上から覗いたら凛が噴き出した
「違うよ、グラスを持ってこうするんだよ」
同じようにグラスを持ち、赤ワイン越しに景色を見た
「びっくり」
「俺達と楓達は大丈夫だけどね」
「完全なセキュリティーシステム、蜘蛛の巣もびっくりな赤外線」
「開いたドアに向かってその薪を投げてみて」
「うん」
投げた薪は一瞬で燃えた
破壊力もすごい
と言うか、スパイみたい・・・赤ワイン、覚えておこう
「じゃ、火を起こして食事を作ろうか」
「わかった」
外は相変わらず激しい豪雨
でも、薪が燃える音は心地いい
「何を作るの?」
「朱雀がいないからこれ」
「成程ね」
凛が持って来たのはレトルトの数々
お湯だけ沸かせばオッケーなやつ
「これって作るに入るの?」
「入ることにしておこう」
「だね」
お湯が沸くのを待ちながら会話を弾ませた
まさかこんな所でキャンプするなんてね
「レトルトって想像以上に美味しい」
「楓の想像しているものは何年前の話?」
「2年前」
「そうなの?」
「彰・・・弟が防災グッズの食べ物を食べてみようって」
「それはまずいかもね」
「うん」
あれは何だったのか?
目の前に並んでいるものとは明らかに違う
「彰って、弟さんなんだね」
「凛は何歳?」
「18」
「年も同じ」
「そう・・・短い人生」
「そうだね」
「楓はその彰さんの命も背負っているんだね」
「・・・・・・・・」
「自分を責めるのはやめた方がいい・・・俺からのお願い」
「ありがとう、でもね」
「許すよ・・・神ではなく俺が楓を許す」
「何だろう、すごく嬉しい」
ふとした瞬間、凛が彰に見えた
どことなく似ているのかな
「人間は我儘だから、大切な人を護る為に人を殺す事もいとわない」
「そうかもね」
「そして邪魔をする奴らもね」
「凛はそっち側かな」
「そうだね」
雨のおかげで凛を理解出来た
傍にいると何だか心地いい
まるで彰が隣にいるような夜だった
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