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兎さんVS俺
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アルが頼んでくれたのは薬草が入ったクリームリゾット。
熱々のリゾットをアルがスプーンで少し取り、ふぅふぅと息をかけて冷ました後に俺の口元に持ってくる。
「あーん」
「……あーん」
いや! これ! 恥ずかしい!!
家で2人きりとかだったらいいよ。ちょっと恥ずかしいけど。
でも! 今はグループメンバーがいる。
しかも全員口をあんぐり開けて俺たちを見てる!
「あーん」
「……あーん」
それなのに、アルは気にならないのか俺に食べさせる事を止める気がなさそうだ。
「アル、俺1人で食べれるよ?」
「俺が食べせたいんだ。駄目か?」
アルの縋るような瞳。俺はこの目に弱いのか、嫌だとは言えなくなる。
「嬉しいけど恥ずかしいよ」
「気にするな。見せつけてやればいい」
何を? 何を見せつけるの?
俺たち新婚ラブラブです!って?
バカっぷる全開にすればいいの!?
アルの堂々とした態度に俺の頭は混乱しっぱなし。
「やばいっす! リーダーの顔がデレデレっす」
「キリ君は恥ずかしがって可愛いんだけどね」
「リーダーの顔はちょっとねぇ」
「……キモい。でも羨ましい」
皆さん、感想はいらないから!
お願いだから見ないで!
【遮断】したい!切実に。
「あの……」
申し訳なさそうに兎さんが話しかけてきた。
「何だ?」
「その人、奴隷商にいた方ですよね?」
「ああ。見つけられて良かった」
見つけてもらえて良かった、です。
「それなら何で彼は甘やかされているのですか?」
ーーん? これは……。
あまり宜しくない雰囲気?
「キリは俺の運命の番だ。お前は買ったが、キリは助け出したんだ」
当然だと言うようにアルが兎に告げるが、兎は納得出来ないようで反論する。
「え? 彼もお金を奴隷商人に渡して連れて来たんですよね? それに彼は人間です。どこをどう見ても僕の方が役に立つと思うのですが?」
アルは俺を膝の上からソファーに置くと、兎の前に行き彼の胸元の服を掴んで捻り、上に持ち上げた。
「んぐっ……」
「良く聞け。お前はグループ共有の資金で買った。キリは俺個人の金で買った。だから、お前はグループのために働く義務がある。キリは俺の、俺だけのものだ。最後にもう1度だけ言ってやる。キリは俺の運命の番だ。それを忘れるな」
凄く静かに言ってるが、怒ってる。アルの周りにブリザードが吹き荒れてる感じだ。
俺から見える兎の体はガクガク震えてる。
「そ、それならば、グループの集まりに連れて、来るのは、ひ、非常識かと。こ、公私混同しないで下さい!」
吃ってはいるけど兎は引かなかった。
「悪いが、それは無理だ。キリは【無慈悲な夜】のメンバーに登録してある」
「彼は人間です。獣人の中では弱い僕よりも更に脆い存在です。帝国内一で唯一のSランクの【無慈悲な夜】に傷が着きます」
【無慈悲な夜】って有名なのか。
人間イコール魔力なしというのが周知なことだから、彼みたいに俺がグループ内に所属してる事に不満を漏らす人は多そうだ。
こういう場合、1番手っ取り早いのが実力を見せるに限る。
「兎さん、俺と実戦形式で戦ってみませんか? もし、それで俺が勝ったら認めて下さい」
「僕は兎さんじゃなくて、ラピヌだ!」
そこは突っ込まれると困るな。俺、兎みたいな我儘自己中な人は嫌いだから名前を呼びたくないし覚えたくもない。
「兎さんが俺に勝ったら呼んであげる」
「僕が勝ったら、このグループからも出ていけ!」
「了解。……アル、何処か戦える場所ってある?」
「ギルドの奥に訓練所があるが、キリ体は平気か?」
「問題ないよ【範囲治癒(オールハイルミッテル)】」
重傷でない限り半径100mの人に効果がある治癒魔法を掛けた。
「狡い! 自分ばっかり怪我治して! 卑怯だ!」
「……範囲治癒なので、兎さんが怪我してたら治ってるはずだよ」
自分だけ治したら文句が出ると思ってたからね。今みたいに。
「そんな魔法聞いたことないし詠唱破棄で人間が魔法使うなんて聞いたこともない」
「だったら、自分の体を確認してみて。痛みはないはずだよ」
治癒魔法なんて怪我してたら、分かるはずなのに……。
兎は身体を確認したあと、唇を噛み締めた。
「治ってるみたいだね。それじゃ戦おうか」
◇◇◇
ギルドの奥にある訓練所は200m四方ある広いものだった。
兎はギルドで貸し出ししてる剣を両手で握り対面してる。
「早く、構えてよ! 武器は?」
「俺は魔法メインだし、武器は魔道具のコレ」
左手首に嵌めてある2連のブレスレットを兎に見せた。
「は? 僕を舐めてるの? 杖もなしに魔法使えるわけないだろ!?」
「……」
兎、今重要なことを言った?
『アル、魔法って杖ないと放てないのが、この世界での常識?』
『……だな。キリが人間で魔法使えるってことに気を捕らわれてて忘れてた』
俺が規格外過ぎるってことか。
それは勇者だった時もそうだったな。
チート能力は良いところも多いが、色々と疑われたりするのが欠点だ。
俺はレッグバッグに手を突っ込み、【創造魔法】で全体黒で先だけ銀模様が入った杖を急いで作る。
「ふふ。杖はあるよ? ほら」
あたかも持ってました。的なように誤魔化した。ローブ羽織ってるし騙されるはず。
『……その杖どうした?』
『今、作った』
『後で詳しく教えろ』
『了解』
アルには嘘つかない。
「準備はいいな? 始めろ」
アルの合図で戦闘開始となった。
兎は剣だし斬りかかってくるかなと思いきや……
「炎よ 岩を砕き 貫く槍となりて 我が敵を 焼き尽くせーー【火炎槍(フレイムランス)】」
詠唱を始めた。
しかも1:1だというのにフル詠唱付きで。
ある意味感心して、彼が魔法を放つの待ってみた。全詠唱だし、どらぐらい質のいいのが来るのかって思って。
だけど、期待外れ。
中級魔法だけど兎が放ったのは下級魔法にも劣る威力しかないと思う。
「【光壁(シャインウォール)】【反射(リフレクション)】」
無詠唱も可能だけど、後でケチつけられるのが嫌だから詠唱破棄で。
兎の放った、たった1本の細っこい火の槍は透明なシールドに当たり反射魔法で、そのまま兎に返品された。
槍というより矢と表現した方が正しい。
【火炎槍(フレイムランス)】でなく【火矢(ファイヤーアロー)】の劣化版と言ってもいいぐらいだ。
たった1本だしね。
これに当たる人がいたら見てみたいよ。
「んぎゃっ!」
「……」
ウン。見レタ。
兎、アリガトウ。
まさか自身の魔法攻撃を返品されたぐらいで当たるとは……。
「クソッ……」
「【幻覚(ハルシネイション)】」
本来は無詠唱で行う魔法。口で伝えてたら暴露してるもので、防ぐ方法はいくらでもあるから! 多分。
ヤル気なしの俺は幻覚魔法で兎の魔力切れを狙う。
まんまと嵌った兎は全然違う場所に魔法を放ち続けた。勿論、フル詠唱で。
暇だ……。
【アイパッドちゃん】この世界での通貨を教えて
今は兎よりこっちのが気になるし重要!
銅銭10枚=銅貨1枚
銅貨10枚=銀銭1枚
銀銭10枚=金貨1枚
金貨100枚=大金貨1枚
銅銭1枚を日本円で1円換算したとすると……
大金貨1枚=1,000,000円
ということは……
アルが奴隷商人に払った金額は×100で
100,000,000円
い、1億!?
高いっしょ!? いくら何でも。
だって兎の日給が銀貨3枚~7枚、同じ換算で3000円~7000円だよ?
兎の日給が安すぎるのか?
『キリ?』
『なに?』
『決定打放て』
『ーーん?』
アルからの念話に首を傾げる。
決闘のことをスッカリ忘れていた俺は一瞬、何のことか分からなかった。
兎を見ると、既に魔力切れになっていて、ヨロヨロと剣を振りましている。
『兎の存在を忘れてた。ごめんね』
アルに謝罪してから決着をつけるために魔法を放った。
「【重力5倍(クイントプルグラビティ)】」
兎だけ重力を5倍にする魔法をかける。すでにヘロヘロの兎は抵抗することもなくベチャッと地面にうつ伏せで張り付いた。
「降参する?」
「だ、だれ、が……」
んー……。面倒だ。
「【全解除(オールリリース)】 【夢魔(ナイトメア)】」
幻覚魔法と重力魔法を解いてから、兎に悪夢を見る魔法をかける。ただ自分に掛かけたシールドと反射はそのままの状態にした。
最速5秒に1回、計100回ほど色んな方法で死ぬ夢を見る。目が覚めた時にまともな精神状態の人はいないと言っても過言ではないと自負してる。
そのため普通の決闘では使用しない。
「んぎゃああああ!」
「ぐわあああーー!」
兎は地面を転がりながら悲痛の叫び声をあげた。
「ちょ、ちょっと待って! 流石に止めてあげて」
ヴォルフさんからストップが掛かったが……。
「ごめんなさい。夢の中で悲惨な死を100回経験しないと目覚めないのです」
1度使えば終わるまで俺すら途中で中断させることは出来なかった。
「え!? そんな魔法を使ったの?」
「はい。降参してくれなかったので仕方なく」
他に方法は沢山あったけど……、兎は少し現実を知った方がいいと思う。
「それじゃ、いつまで続くっすか?」
「後、5分ぐらいでないでしょうか?」
「そんなに……」
【無慈悲な夜】というグループ名の割にはヴォルフさんは優しい人だ。俺とは全然違う。
俺は勇者だった時も仕方なかったとはいえ何度か仲間を見捨てた。最低で最悪な勇者だった。
「【夢魔転換(ナイトメアコンバージョン)】」
ヴォルフさんが睨みつけてきたので最終手段を取った。自身が代わり残りを受ける魔法。これが唯一の方法だ。
俺は立ったまま悪夢の中に引き摺り込まれる。
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