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始動 2 (龍之介side)
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足早に非常階段を駆け下りる。
闇の仕事をするのに、もとより24時間稼働しているフロントを通るなど狂気の沙汰だ。
数時間後には、何の痕跡も残さずに戻る。
あたかも、部屋で眠り続けていたかのように。
眠りに落ちる直前に、士郎には一服盛ってあった。
朝まで起きる心配はないだろう。
監視カメラの位置は、すべて頭に入っている。
死角をかいくぐり、素早く駆け、敷地外に出た。
近場の駐車場の一角に停めてあった中古車のロックを電子キーで解除すると、トランクからアタッシュケースを取り出し、素早く中に乗り込んだ。
アタッシュケースにはサイレンサー付きの銃や手袋、マスクや暗視ゴーグルなどが所狭しと収められている。
「……ったく、あのオッサンは」
これではまるで潜入用具だろ、と苦笑した。
今回は米兵として正規のルートで基地を訪ねるのだから、本来ここまでの装備は必要ないのだが。
組織の長となった今、おまえの命は自分一人のものじゃない、いつどこで何があってもいいように備えろ、とのメッセージとも取れた。
もとより無事に帰り、引き続き士郎とのバカンスを楽しむつもりだと、手早く必要物品を身につけた。
米軍基地への表向きの訪問理由は、幹部でもあるリンの兄への表敬訪問だ。
世界的なコングロマリットでもあるリンの実家は、米国内でも絶大な権力を誇る。
7人いるリンの兄弟は世界中に散っており、みな国籍も母親も違うという。
いつ誰に何があっても、誰かが必ず生き残り、家督を継いでいけるように。
進む道は自由でいい。
ただし、どの分野でも必ずトップに立て。
家訓のもと、代が変わるたびにますますリンフィールド家は栄えた。
有能でさえあれば栄華をつかめる反面、無能な者は容赦なく振るい落とされる。
完全実力主義。
当然、兄弟間のライバル争いも激しい。
だが、仲が悪いかのというとそうでもないのだと、リンは楽しげに笑う。
皆強者ぞろいで、競争自体を楽しんでいるのだそうだ。
軍部に身を置くリンの兄に会うのは初めてだが、密かに楽しみにしていた。
裏社会のトップを目指すリン同様、軍部もまたフィールド的には自分の生きる世界と合致する。
リンフィールド家の直系ともなれば、いずれは軍のトップに登り詰めると考えていい。
ならばその人となりを、この目で確かめておきたかった。
ゼロ・リンフィールド。
若くして軍幹部の地位を得ながら、嬉々として最前線を渡り歩き、数々の勝利を手にしている鬼神。
単なる命知らずか、根っからの戦好きか。
いずれにせよ、退屈はせずに済みそうだ。
できれば拳を交えてみたい。
いつの間にか基地訪問の目的が変わっている気がしたが、細かいことは気にしない。
情報はもらう。
その上で何をどう楽しもうが、あれこれ指図される覚えはない。
月明かりに照らされた夜道に車を走らせながら、つかの間、士郎との甘い夜の記憶を反芻した。
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