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始動 13 (ゼロside)
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目覚めた時、龍之介は机の上にあるパソコンと向き合っていた。
ブルーライト除けのメガネをした姿は知的にさえ映る。
幾重にもかけられたコンピューターのロックを、いともたやすく外したか。
もはやおかしくて、笑えてきた。
「止めなくていいのかよ? 極秘情報に遠慮なくアクセスしちまうぜ?」
「好きにしろ。ダルくて起き上がる気にもなれねぇ。そのくせ、疼く。……何なんだ、おまえの身体は」
「ははっ、中毒性高ェんだよ。しばらくは他のヤツ抱いても満足できねェらしいから、覚悟しとけよ?」
「そん時は、またヤらせてくれんだろ」
「や、もう勝負は着いたからな。テメェとは二度とヤんねェ」
抱いている時にはアンタ……と甘えてきたくせに、早くもテメェに格下げか。
「真に抱きたい相手は一人だけ、か。……そんなにあいつがいいのかよ」
我ながら嫉妬に狂った女みたいだと呆れたが、龍之介は笑わなかった。
「……ああ。狂っちまうほどにな。会えたのは奇跡だ。……ぜってェ手放さねェ」
ゾクリと震えが来るほどの独占欲。
「テメェだって結局はアキラがイイんだろ?」
胸の奥が甘く痛む。
どうせ飽きると、壊れるまでの暇つぶしに始めたゲームだったが、気づけば深く果てしなく囚われていた。
「んな風にけしかけていいのかよ。……ブッ壊しちまうぜ?」
「アイツを甘く見ンじゃねェよ。現に今だって壊れちゃいねェだろーが」
むしろ変わったのはテメェの方だ。
黒曜石の瞳が射抜くように鋭く見つめてくる。
「……っ」
「アキラに出会う前の乾ききったテメェだったら、さすがにヤバかったかもしンねェ。けど今の焦れて弱ってるテメェには負ける気がしねェ。自分が思ってるよか遥かにアイツに参ってるンじゃねェの?」
ふと気づけばアキラのことを考えている。
離れたのは失敗だったと、認めたくはなかったが確かに後悔している自分がいた。
真に手に入らないまま別れたからか。
未だ完全に壊すには惜しく、さりとてそばにいたところで手詰まりで、いったんリセットするのも一興かと二人の関係を絶ってみたのだが。
その結果自分だけが焦れているなどお笑いぐさだ。
「戻ってくるなら、取りなしてやるぜ?」
「……バカが。あいつの根っからの兄ちゃん気質、利用しなくてどーするよ?」
離れても、あの真面目で責任感の強い男は昔馴染みの仲間の行く末を、死ぬまで気にかけるに違いない。
おまけに自分にはおぼろげながら、弟を連れ去った男の唯一無二といっていい記憶がある。
けして断ち切れない絆。
ほとんど気配に近いほどかすかな記憶でも、アキラにしてみれば全力ですがらずにはいられない。
「ハルいわく、たまにテメェのコト聞いてくるってよ」
「……だろうな」
素っ気なく答えたつもりだったが、途端にンな不満げな顔すンな、と笑われた。
「そりゃ、今ンとこアイツの特別は弟をのぞけばオレだもんよ。テメェの順位は必然的に下がるってモンだ」
「……ケンカ売ってんのかよ」
「おう、テメェとやり合うのは、楽しそうだ」
龍之介がニヤリと笑う。
アキラが惹かれた男は底知れない闇を抱えながらもすべてを包み込み、質の高いブラックダイヤのように妖しく煌めく、極上の美酒のように後を引く男だった。
弟のリンが幼い頃からひたすらにかまい倒し、湯水のように金を注ぐのもわかる気がした。
自分とは違う遥かに高い熱量で生を謳歌するこの男の生き様は、ひどく鮮やかに胸を射抜く。
自分が人生において決定的に取りこぼしてきた、遥かに忘れ去ってしまった何かに届くかのような。
ほんの少しだけ凍えていた場所が溶け出し、頑なだった氷にヒビが入る。
わずらわしくも、けして悪い気分ではない。
この感情に未だ名前をつけるほどの確信は得られなかったが、この男とはいずれまたどこかで深く人生が交差する気がした。
次は敵か味方か。
どちらにせよ、それなりに楽しめそうだ。
「一眠りしたら、もうひと勝負しよーぜ? 今度はベッドじゃなくて、リングでな」
馴れ合うつもりなど欠片ほどもなく、単にいつものように嬲り堕として傷つく様を冷たく見下ろしてやるつもりだったのに、何だかなと苦笑しつつも、それもまたいいかと大きく伸びをした。
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