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金閣楼は老舗の料亭であるが、奥の座敷には寝泊まりまで出来るお得意様向けの部屋がある。冴島が何故それを知っているかと言うと、一度別件のクライアントと会食をしに来たことがあるからで、その部屋で酔い潰れ、結果的には一泊した事があるからである。
「またここに来るとは…」
奥の座敷に通された金塚と冴島は、まだ来ていないクライアントの中森らが来るのを待っていた。
「前に来た事があるのか?」
「えぇ。別のクライアントと前は企画成功の祝杯として。飲みつぶれちゃって隣の部屋で寝かせてもらっちゃって、あんまり記憶がないんですけど。」
「…ふぅん」
「金塚さんは来た事ないんすか?」
冴島は馬鹿にしたわけでもなく、ただ純粋に質問しただけだったのだが、金塚は横目で一度睨み付けると「…無くはないが、思い出したくもない」と答えた。
それを冴島は同じ様に失敗したのでは?と察して妖しく笑う。
「へぇ、金塚さんもそんな事あるんすね。」
「…何がだ」
「酒弱いんすか?」
「はぁ?おまえと一緒にするな。酒なんかに潰れるわけないだろ。」
「じゃあなんで思い出したくないって?」
「んなの色々理由はあんだろ。」
「ありますかね?そんなの。」
冴島が目の前に並ぶ料理をこっそり覗きつつそんな事を漏らし、金塚は冴島に聞こえない程度に舌打ちをした。
約束の時間を10分程過ぎた頃に中森達はやって来た。
「やぁ、遅くなって悪かったね。」
「いえ、むしろ大丈夫ですか?仕事が押しているのでは…」
「大丈夫大丈夫。ちょっと仕込みをね、してて遅くなっただけなんだ。」
へらへらと緩い笑いを浮かべる中森に、金塚は不審な目を向けるが、冴島は似た様な笑みを浮かべて「そうですか」と相槌をした。
「先に食べてなかったんだね。良かったのに。」
「まさかそんな事は…それよりもどうぞ早くお席に。」
金塚に促されるままに上座に鎮座する中森と、その隣にはもう一人のクライアントである木部が座る。
「じゃあ乾杯しようか。これから皆で一丸となって企画を成功させられる様に。」
「はい。では…」
中森のグラスにビールを注ぎ接待をする金塚と、それを嬉々として受ける中森は明らかな主従の関係に見て取れた。自社では自由奔放を絵に描いたような男だが、クライアントの前ではそうでもないのかと冴島は少し感心した。
「乾杯」と中森がグラスを上げると皆も合わせてグラスを合わせる。冴島は注がれたビールを一気に飲み干して、その苦味と爽快感を全身で感じた。
「いい飲みっぷりだねぇ、冴島くん」
「いやぁ、やっぱり最高っすよ!」
すでに気分が高揚している冴島の口調が軽々しく、金塚は睨みを効かせたがその効果はあまり計れない。
「金塚くんはあんまり飲まないんだねぇ」
「静かに飲む派なもので。」
そう言いながら一昨日居酒屋で遭遇した時はそこそこに盛り上がっていたではないか、と冴島は胸中で呟く。
それに気付かない中森は妖しく笑いながら「金塚くんらしいな」と言って、また一口ビールを仰ぐ。
「無礼講だからね。どんどん食べて、どんどん飲んで。」
中森に言われてその気になった冴島は、それでも気を使いながらであるがビールを煽って行く。途中で金塚に「もうやめておけ」と何度か指摘されたが、「いいじゃないっすか!こんな美味い酒飲まないなんて損っすよ!」と言って聞かなかった。中森もそれを楽しむ様に「もっと飲みなさい」と煽るのがまずい。
時間にして2時間程が経った頃には、冴島は案の定酔い潰れ、その場で寝転げてしまった。
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