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金塚は溜息をついて冴島の額を叩き、「起きろ!」と何度も起こしたが冴島は一向に目覚める気配がなかった。
「あーあ、こんなに酔い潰れちゃって。若いっていいなぁ。僕なんかはこんな無茶はもう出来ないよ。明日に響いちゃうからねぇ。」
「すいません。もう起こして帰りますんで…」
「いやいや。気にしなくていいよ。いいじゃない、チーム内で気が置けないみたいで。これからも仕事がやりやすいでしょ。」
常に笑顔を崩さない中森は、この状況においてもそれは変わらず、むしろ余計に楽しんで見える事が金塚には不可解だった。
いくら無礼講とはいえ、本当に無礼を働いていいわけではない。常にお酌をしなくてもいいよというレベルの話であって、酔い潰れてその場で寝てしまう様な無礼は許されていない。
それなのに中森は少しも不愉快な表情を浮かべなかった。それがこの人の器なのか。遅刻もさして気に留めず、1番年下である冴島が誰よりも失礼な態度をとっている事に怒りもしない。
いや、そうではなかった。
中森は冴島の遅刻を咎めたではないか。あれはここに来させる為のただの戯言か?
金塚は密かに中森の方を見る。
だが、中森の双眸は金塚が見るより前から金塚に注がれており、その視線とぶつかった。
ギクリとした。
中森は…この男は笑っていないではないか。
顔の表情筋は笑顔を作っている。だが、筋肉をそう動かしただけの擬制であり、心根はそんなところにはない。
金塚は以前より中森を信用していなかった。クライアントとしては大きな依頼を持って来てくれる良き人物ではあったが、それ以外の素性がよく分からなかったのだ。例えば中森の会社での評価など、役職がある分良い仕事はするのだろうが人物としてはどうなのか、何度も共に仕事をしていれば見えてくるものが何もない。いつも隣にいる木部もほとんど口を開く事がない。これではまるで、敢えて口止めをしているような、そんな雰囲気ですらある。
中森の人物像が聞こえて来ないというのは、むしろ、聞かせられない事があるからなのか。
金塚がそこに思い至った時、中森は動いた。
「今回の企画書ね、僕は金塚くんに頼んだよね?でも僕の知らないところでそこの酔い潰れた若僧に流れていた。今日の会議には遅刻。会食でも取引相手の前で酔い潰れる体たらく。…それでも今日の企画書は悪くなかった。あの企画書を通したくはない?」
「それは朝の会議で決まった話では…」
「でもこんな無礼を受けて僕が臍を曲げたら別の会社に変えてもうちの会社に問題はないんだよ。」
「無礼を働いて申し訳ございません。ですが、冴島は冴島なりに頑張っております。今日の寝坊はきっと朝方まで持ち帰って企画書を作っていたからだと思います。ですから…」
「そうだろうねぇ。なら尚更報われてもいいよねぇ?」
中森は静かに歩み寄り、冴島の体を揺さぶっていた金塚の手に触れる。全身に悪寒が走るのが分かった。
「…私は…何をすれば…」
「言わせたいのかい?」
中森が木部に目線で合図すると、木部は横の部屋に繋がる襖を開けた。そこには1組の布団が敷かれていた。
「ずっと思ってたんだ、金塚くん。君のその艶やかで白い肌、細くて繊細そうな体をいつか抱いてみたいって。」
中森が耳元で囁くのを聞いて、金塚は思わず舌打ちを打ちかける。手の甲を親指で摩るその仕草に、虫唾が走った。
「抱かせてくれたら、この企画を通してあげるよ」
中森が金塚の手を引いて「さぁ」と隣の部屋へ誘い込む。
立ち上がれば終わりだ。
こんな男に抱かれる位なら仕事なんか辞めたっていい。
金塚は中森の手を振りほどこうとして、頭に嫌な光景が広がる。過去からのフラッシュバック。それを見たくなくて、見えなくなるわけでもないのに目を背けた。
そして目に飛び込んで来たのは幸せそうに眠る馬鹿な後輩。入社2年目にして優秀な後輩だと、同僚の鳴瀬は言った。冴島の働きには金塚も同じようには思っていた。金塚が悪態を吐くのは無能だからじゃない。言えばやれるからだ。だからこの企画も任せてみてもいいとあの時は思ったのだ。
だがこの状況ではさすがに…
「恨むぞ…冴島」
金塚は中森の手に引かれるしかなかった。
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