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「馬鹿かおまえは。いい加減しつこいっつうの。俺の事をどう見直してるのか知らないけど、別に今までおまえが思ってたのとそんな変わんねーよ。」
そんなわけがない。
今まで冴島は金塚の事を仕事にいい加減で、横柄で、大して立派なことも出来ない厄介者と思っていた。さらに言えば、昨日の一件のせいで枕営業までする最低野郎だと思った。
もし鳴瀬が冴島に真相を話さなかったら、冴島は今も金塚をそういう目で見ていただろう。
そう思うだけで恐ろしく、みっともない。
「金塚さんは、なんで俺を責めないんすか。」
「なんなのおまえは。めんどくさい奴だな。責めることなんかないだろうが。それに、おまえは忘れてるかも知れないけど、俺もそこそこおまえに嫌がらせしてんだから、そこはおあいこだろ。」
「でもそれは売り言葉に買い言葉みたいなもんじゃないですか!俺が金塚さんに嫌な態度とるから…」
「はー…おまえは本当にしつこいね。分かった分かった。じゃああれだな、おまえは本当の俺を知らなかった馬鹿野郎だって事にすりゃあ良いんだな?」
「……それもちょっと違う気が」
「めんどくさ!もうおまえは俺にどうして欲しいんだよ。」
「どうって…」
そう聞かれて考えてみたが、別にどうこうしてほしいわけではない。ただ単に自分の気がすまないだけだ。
「どう…してほしいんですかね。」
「知るか!あー、分かった。こうしよう。飲もう、今日は。1時間飲んでうだうだめんどくせー事吐き出したら終わりにしよう。その先は二度と同じ事を言うな。いいな?」
「…はい」
金塚がキッチンから一升瓶の酒と器を持ってやって来た。ラベルの名前を見ると、そうそう簡単には手を出せない有名な本格焼酎だった。それもまだ未開封だ。
「いいいいいんすか!?これ高っかい酒っすよ!?」
「おまえ、酒は何のためにこの世にあると思う。」
「え?え、な、何の…の、飲むため?」
「その通りだ。ほら、飲め」
器に注がれた透明な液体。外見は凄く透き通った水にしか見えないが、これが水とは比べものにならない程驚くべき高値で売買されている。たかが焼酎だが、されど焼酎だ。人生でいつかは飲んでみたいと、これを一つの夢にする人間だっているのだ。いささか抵抗はあるものの、その分誘惑も半端ではない。
どの道注がれてしまったのだから、捨てるくらいなら飲んだ方がいい。
冴島は差し出された盃を受け取り、一気に煽った。
辛みが強く、喉が焼けるように熱くなる。けれど水のように喉越しはさらりとして柔らかい。酒を飲み慣れてなければ飲めなさそうな味わいなのに、素人にも飲みやすい舌触りがあまりにも不自然で冴島は一瞬でこの酒の虜になった。
「美味ッ!なんなんすかこれ!」
「なー、美味いよなー。俺あんまり焼酎飲まないんだけど、これはヤバイくらいハマってんだよなー。」
「もぉぉ…金塚さんといると美味いもんばっかりだぁぁ」
「珈琲と酒しか飲んでねーぞ。」
「そうですけど美味いもんは美味い!なんかつまみとかないんすか?」
「料理はからっきしだから作れないし、買い置きも今はないな。」
「食材はなんかあるんすか?」
「あー、なんか貰い物なら何かしらあった気がするな。」
「よし、じゃあ俺作るっす!」
勢いよく立ち上がりキッチンへ向かうと、許可を得てから冷蔵庫を開けた。大きさの割に使用範囲は狭く、料理をしないというだけあって、まともな食材はほとんどない。それでもつまみに出来そうな食材を取り出してすぐに調理を始める。
キッチンに立っていると金塚が焼酎を片手に寄って来た。金塚は興味津々といった風に冴島の手元を見ている。
「手際いいなぁ、やっぱり。」
そう言って酒を一口煽ると、すでにカットしてあったチーズに手を伸ばした。
「切ってるだけっすよ。」
金塚に褒められる事に慣れてなくて、気恥ずかしやら、面映ゆいやらで、ジッと手元を見つめるその目を意識せずにはいられなくなった。
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