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始動
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その日、ホームルームでは種目ごとの選手決めを行った。基本的には希望制だが、必ず一人一種目は参加する決まりだ。
競技は個人種目の他に団体種目がいくつかある。女子は棒引き、男子は騎馬戦、そして全体では玉入れやクラス対抗リレー。
足を怪我している淳は「昔からお手玉が得意だ」という謎の熱弁も相まって、真っ先に玉入れに落ち着いた。その流れで各々の得意な種目を聞いて、おおよそベストなチーム配分が決まっていったのだった。
勿論『瞬足の池田』は周囲の猛烈な推薦と体力測定の結果からリレー選手に組み込まれている(なるほど周囲の期待と言うのも重たいものだと気の毒にもなった)。教師の手前、池田は涼しい顔をしていたが……当日になって理由をつけて欠場する気でいるという情報は既に林から伝わっている。そこをどう引き留めるかが俺の課題というわけだ。
「個人種目はひとまず各自で頑張ってもらうとして、これから団体種目の作戦を練ろうと思う」
余った時間で俺は教壇に立つ。明日には早速、騎馬戦と棒引きの合同練習があるのだ。ここでうまく勝てばクラスの士気を上げる事ができるし、池田も少しは俺を信頼してくれるかもしれない。
***
騎馬戦での作戦は二段階。今日の合同練習では、その第一段階を仕掛ける。
「えー騎馬戦では、落馬または紅白帽をとられた騎馬は、速やかに陣地へ戻るように!」
教師の説明が終わり、いざ練習が始まった。Dクラスの練習相手はあいにく芋瀬のいるAクラスではなかった…が、作戦に問題はない。
ピイイ――!
開始の笛が鳴ると同時に、俺達は紅白帽のツバを後ろへ回す。いわゆる「やんちゃかぶり」だ。
「何だアレ」「パフォーマンスだろ」
相手は気にも留めていないが、数秒後にその意味を思い知る事になる。
「だぁっ、やりづれえな!クソ!」
帽子を奪う際にまず取っ掛かりにしたいツバ。それを後ろにやられると随分掴みにくくなるのだ。相手がもたついている隙に、こちらの騎手が帽子を奪っていく寸法だが……。
「このっ、うざってえ真似、しやがって!」
「うぐ、ぐぎぎ……!」
当然騎手によっては力負けしそうになる。……危うい時、騎手はこう声を出すように決めている。
「いっせーのーがァ!」
「「「せっ!」」」
騎手に応えて、騎馬役の三人が大きく後退する。すると取っ組みあっていた相手の騎手は前のめりになりバランスを崩す。その隙に帽子を奪うか落馬へ持ちこむのだ。
「おいみんなアレ見てみ!!1-Dが意味分からんくらい強え!!」
俺達の練習試合に、次第にギャラリーができた。練習とは言え身震いするほどの圧勝ぶりにDクラスだけならず周囲もわきたった。……順調な滑り出しだ。
***
「……宰次くん、この作戦って練習で見せる事無かったんじゃないかな……?」
「今日見てた奴ら、絶対に本番で真似してくるぜこの作戦!」
別クラスの練習試合を体育座りで眺めながら、興奮冷めやらぬDクラス。その中でそんな声がふりかかった。
「クク……当然そうなるだろうな。だがそれも作戦のうちだ安心しろ」
「へぇ……宰次くん、よく色々思いつくね」
「本当に喧嘩慣れしてるんだな……さすが元ヤン」
「おい待て誰が元ヤンだ」
「オイそこ!ふざけない!」
担任に釘を刺され、おのおの大仰に姿勢を正してみせる。俺も膝を抱えながら、クラスの今まで喋らなかったような相手とも打ち解けられてきている事に高揚を覚えていた。胸が疼く。
「宰次、凄く楽しそうだね」
淳に言われて、この疼きの正体に気付く。
「……そうだな、悪くない」
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