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跪(ひざまずく)いた彼は、そっと囁いた。
「君の名前は?」
「え...?」
突然の質問で、反応が一瞬遅れる。
「名前」
「あ、相澤、悠です...」
媚薬が盛られていると気づかれないように、なるべく小声で話す。
すると男は、「少し、我慢して」と、耳元で囁いた。
「ンン、ヘっ!?」
耳元にかかった吐息に驚嘆した悠は、我慢していた熱込もった声を露わにする。そして突然の浮遊感に恐怖を覚え、ぐっと目をつぶった。
そしてそっと目を開く。
「大丈夫、悠安心して。」
悠は目を見開いた。
身体は、男の手によって横抱きされている。世でいうお姫様抱っこだ。
逞(たくま)しい腕が、悠を包み込む。彼の体温は心地よくて、どこか懐かしい温もりだった。
男は平山には目もくれず、スタスタと車に向かって歩き出した。
そんな彼の態度に不満を覚えた平山は、「なあ、」と声をかける。
「俺のこと忘れてるだろ?」
平山の声に反応した男が、振り返り、平山と対峙する。
「それ、俺のモノなんだけど、なに勝手に車に乗せようとしてんだよ?」
平山の言った言葉をすぐ様否定したい悠だが、今口を開くと我慢している声が漏れてしまう。
悠は、唇をきゅっと噛み締め、声を出すのを我慢するのと同時に、悔しさを滲ませる。
しかし、男は「ふふ」と小さく笑い、悠に優しく語りかけた。
「悠、彼は恋人か?」
力強く首を横に振る。
「じゃあ友人?」
再び首を横に振る。
「それでは、彼は何者なんだい?」
「彼は、ただの...こうは......。知ら、ない人で、すっン!」
もう限界に近く、熱を帯び苦しそうに言った悠の声は、確かに平山にも伝わり、怒りの表情が露になる。
そしてその返答に満足した男は、爽やかな笑みを浮かべながら、無言で抱えた悠と共に、車内へ消えていった。
平山の怒り狂った声や、扉を叩く音が小さな路地や、車内に鳴り響いていたが、既に限界を超えた悠の耳には、届かなかった。
そして男は、「ノエル、気にせず車を」と燕尾服を身に纏い、ノエルと呼ばれる者に伝えた。
ノエルは「はい、ルイス様」と悠を抱えるこの男、ルイスに一言返事をすると、車を発進させるのだった。
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