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中学最後の夏、初めての彼女が出来た。きっかけは部活での舞台稽古。元々仲は良かったが、彼女の恋人役になったことで互いに意識し始めた。少し、役に侵食されていた可能性はあるが。それでなくとも芯の通った、少し頑固で常に自分に自信を持ちキラキラと輝いていた彼女は魅力的で、理不尽な要求や我が儘も俺は受け入れていた。時折俺の前で見せる涙も、必要とされているようで嬉しかった。
「ごめーん、友達と予定入っちゃったから今日行けなくなった」
そっか、それなら仕方ないね。楽しんで。
「ごめん、その日は✕✕くんとお買い物に行くから会えない」
仲良かったもんね、俺とはまた今度でいいよ。
「だって……ゆうやが最近構ってくれないから寂しかったんだもん」
ごめんね、寂しい思いさせて。でも君が高校に落ちるのは嫌なんだよ、わかって?
デートがドタキャンされても、他の男と遊ぶために誘いを断られても、残念だ、くらいの感情しか湧かなかった。受験勉強が忙しいだろうと敢えて距離を置いているうちに浮気をされても許した。それが彼女には物足りなかったのだろう。
「ねぇ、」
何か言いたげな、曇った表情で俺を見上げる。
「なぁに?」
そっと手を握り安心させるように指を絡めた。卒業を控え少しナイーブになっているのかもしれない。高校も別々になるから俺達の今後にも不安を感じているかもしれない。
「…………もう、別れたいの」
「え?」
彼女の自宅前。冷たい風も気にすることなく、お互い離れたくなくてつい先程まで他愛のない会話をしていた。
それが、別れ話だなんて。しかし考え抜いた結果だろう。彼女は意思も強いから俺が引き留めたところで立ち止まらないのは知っている。だからこその答え。
「……そっか。わかったよ」
理由も聞かず繋いでいた手をゆっくりと解いた。
「どうしてか、聞かないの?」
「なんで?聞いてどうするの?聞いて引き留めて、君の意思は変わるの?その程度の気持ちを表に出さないのなんて知ってるよ」
「…………そういうところ、優しいよね」
俺の長所はそれくらいしかないからね。
彼女の嫌いな言葉を飲み込んで苦笑した。すると今にも溢れそうなほどの涙を溜めて、けれど棘のある口調で叫んだ。
「優しいけど冷たいよ!」
「へ……?」
風の冷たさなのか彼女の甲高い声のせいなのか、耳の奥脳内がキーンと鳴る。
「本当に私のこと好きなわけ?!何回ドタキャンしても怒らないし男友達と二人で遊んでも嫉妬もしないし……好きじゃないならさっさと振りなさいよ!」
そうか、彼女の思う通りに愛してあげられなかったということか。
「……ちゃんと好きだよ」
「じゃあなんで怒らないの?!」
なぜ?なぜだろうか。怒りが湧かないものは湧かない。
俺が考えている間に彼女の瞳からはとうとう、ボロボロと涙が流れ出した。
「君が楽しかったらそれでいいじゃん。君は俺の所有物じゃないんだし伸び伸びしてて欲しいよ」
「もういいっ!!」
痛いくらいの涙と叫びを残して振り返ることなく自宅へと入っていく姿を呆然と、思考は冷静なまま見つめていた。
その後一切口を聞くこともなく卒業を迎え、高校へと進んだ。
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