アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ALETTA ─最終話─
-
あの夜の出来事は、すぐに国内外へ広がった。
だが驚く者などいない。皆一様の反応を示すだけだった。
「アルベルト王が命を狙われたらしい」
「またか?」
1度や2度ではない。
アルベルトはその地位も要因としてさる事ながら、元々冷酷な性格だったせいか多方面に敵が多く存在し、命を狙われる事はしばしばあった。
「それで、その暗殺者は?」
「ああ。死んだらしいぜ」
「だろーな。まぁ、あの王を殺せる奴なんてどこにもいないだろ」
特に珍しくもないこの出来事は、十日もしない内に噂する者がいなくなった。
それから1年が過ぎ、東ローマが西ローマの支配権を手にする形で終結の時を迎えた。
統一ローマを再興したのだ。
だが、悲願であったはずのその現実に、手放しで喜ぶような素振りはアルベルトには無かった。
本当なら側に居て、共に喜びを分かつはずの者が今はいないからだ。
「きっと…あの方も喜ばれているはずです。」
勝利の栄光を手にしながらも、緊迫を解かないまま宮殿に戻ったアルベルトに、側近の1人が激励を送る。
しかし、それでもアルベルトの表情が緩むことは無い。
「そうだな…。」
一言そう呟き、アルベルトは先へと続く廊下の外に目を遣った。
鮮やかな色彩画を切り抜いたような晴天は新たな門出を感じさせながらもどこかもの寂しげに広がり、亡き者の姿を想い描かせ、足が止まる。
「今の俺を見たら…きっと呆れてモノも言えないだろうな。」
アルベルトは憔悴を含んだ笑みを浮かべた。
これまでにも多くを失った。そして今回は更に大きなものを…。しかし、新たに得るものもあった。
目蓋を重く閉じ、今は無きものの全てを目の裏に焼き付け、もう一度窓の外に目を遣った。
歩みを止めるわけにはいかない。
勝利を讃え、沸き立つ群衆の声が彼に顔を上げさせた。
「さぁ、参りましょう。民衆が待ちわびております!」
「ああ。"あいつ"を呼べ。共に前へ立つ。」
その言葉に側近の1人が足速に立ち去ると、今度こそ歩みを止めず足を進めた。
ここから新たな物語が始まる。
扉の前で歩みを止め、アルベルトは脇の短刀を抜いた。
それは愛する者が自らの命を掛け、アルベルトに渡した物だ。
彼はその短刀を額に当て、深く瞳を閉じる。
だが込めるものは祈りではい。誓いだ。
「それ、持っていてくれたんだね」
背後から近付いた静かな足音がそう告げる。
「ああ。これは今までのお前の全てだったんだ、捨てるはずがない。言っただろう?"お前の全てが欲しい"と。」
アルベルトがそう答えると、くすりと微笑む声が控えめに隣に並んだ。
「そういえばそんな事言ってたっけ?」
悪戯っぽくそう返す声は、以前の様に挑戦的ではなかった。
ただ穏やかに、当時の事を懐かしみ、噛み締める。
「さぁ、扉を開けろ。」
アルベルトの声で、広場まで見渡せる広いバルコニーがゆっくりと広がった。
その隙間から溢れる光に眩む目が少しずつ慣れるたび、群衆の歓喜の声が2人を包み込んでいく。
アルベルトの隣に立つ黒髪は肩まで伸び、女人をも優る白い肌と端麗な美を持つその男の背には、容姿とは似つかぬ残酷な傷跡があった。
それはまるで、地上に降り立った天使が片翼をもがれたような…。
「覚悟しろ。もうどこへも行かせない。お前は、俺の側でだけ羽ばたいていろ。エリス……いや、」
アルベルトは彼に手を差し出し、彼もまた、その手を取り迷いのない真っ直ぐな眼差しを返す。
彼の名は──
「アレッタ。」
END
※アレッタ=翼のある
このお話を書くにあたり、まずイタリアやローマ帝国時代を調べるところから始まりました。
それから少しずつ書き進め、何度も立ち止まり、迷い、悩み、試行錯誤を繰り返し、早数年(かかりすぎ)。
昨年、実際にローマへも行ってまいりました( 笑 )
今尚歴史溢れる街で、現代との融合が何とも魅力的な場所でした。
書き終わりたいけど終わりたくない。
それ程までに心を込めて込めすぎた結果がこの数年でしたが、読んでくださる方のコメントを何度も読み返し、支えられ、平成が終わる前に何とか書き終えることが出来ました。
過去に読んでくださっていた方も、今はもういらっしゃらないかもしれませんが、ふと思い出し、いつか最終話まで読んでいただき、すっきりして下されば幸いです。やっと終わったか、と( 笑 )
そして気長に読んでくださった方。本っっっ当にありがとうございました!。゚(゚´Д`゚)゚。
彼らと皆様にこれからも幸多からんことをお祈りしております。
また機会がありましたら次のお話でお会いしましょう。
最後にもう一度、気長にご観覧いき、ありがとうございました<(_ _*)> クロエ
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
79 / 79