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「大宮チーフ、卵落としちゃった」
スーパーが買い物客で最も賑わう夕方5時。
乳製品などを扱うデイリー売り場の主任である倫祢はバックヤードにあるパソコンで翌日用のPOPを作成していた。
「またお前かよ、野木ぃ」
「ごめんね」
「そこ置いといて新しいのと換えたげて」
青果部門のアルバイトである野木は、はっきり言って半人前どころか3分の1人前にも満たないポンコツだ。
1日に1回は必ずミスをするし、上司に対する言葉遣いもなっていない。
駄目なところを挙げ出したらキリがない。
それなのにクビにならないのは青果のチーフが野木の遠い親戚であるからだという噂がまことしやかに囁かれている。
POP作りが終わっても今度は伝票のファイリングから今度の会議に持っていくレポートの作成と、事務仕事は次から次へと追いかけてくる。
(コーヒーでも飲んでくっかな)
タバコを吸わない倫祢の職場でのストレス解消法は、通用口の脇にある自販機の缶コーヒー。
最近のお気に入りは青みがかった紫色の缶がお洒落な『夕暮れブレンド』だ。
いつものコーヒーを買おうと小銭だけ握って立ち上がったところへ、10分程前に売り場に出ていった野木がバタバタと足音を響かせて戻ってきた。
「チーフー、白いのもうないよ」
「はぁっ?」
言ったことが右から左へと抜けていく野木には、店内は走るなとどれだけ言っても効果がない。
「何だ白いのって」
「たまご」
「また落としたのか、お前?」
「違うよ。今日はまだ1回しか落としてないよ」
自慢げに胸を張るので錯覚しそうになるが、普通の従業員は1日に1回も落とさない。
「まさか、さっきのお客さんにまだ持ってってないんじゃないだろうな?」
「うん、だってずっと探してたし」
「だってじゃねえよ……ったく」
野木を待たせてバックヤードの在庫を見に行ったが残っているのは赤卵ばかりだった。
その中から1パックを手にとって野木のところへ持っていく。
「値段は安いほうの卵で打ってこれ渡したげて。間違えても赤卵で打つなよ」
「わかったー」
「落とすなよ」
「うん」
これで丸く収まる……筈だった。
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