アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2-1
-
次の日曜日、敬典に誘われて倫祢は懐かしい教会に足を踏み入れた。
倫祢の日曜の勤務は夕方6時までなので、定時で上がることが出来れば6時半からのミサに間に合うのだ。
「うわー、変わってないなー」
聖堂は天井がとても高いので、暖房を効かせていてもどことなく肌寒い。
木で出来たベンチに腰掛けると、忙しい毎日で忘れていた幼い日々の思い出が蘇った。
「敬典もいつかここでミサとかやるようになるんだよな」
「そうなるといいですけどね」
「敬典が神父さんになったらさ、俺洗礼受けようかな」
「えー? 倫祢さんがですか」
倫祢は特に深い意味もなくパッと口に出した言葉だったが、敬典は何かを考えているようだった。
「まさか、まだおせんべいの事根に持ってるんじゃないですよね?」
「だったら悪いか?」
「倫祢さんらしいです」
敬典の言う「おせんべい」とは、ミサの終盤で行われる「聖体拝領」という儀式で供される薄いウェファースのことだ。
このウェファースはキリストの身体を象徴していて、洗礼を受けた信徒だけが口にすることができる。
小学校に上がった年に洗礼を受けた敬典はこのおせんべいを食べることが出来て、自分は貰うことが出来ないというのが子供心に悲しかったのだ。
その日の帰り道、敬典は駄菓子屋でピンク色をした大きなウェファースを買ってくれたが、倫祢は白いのがいいと駄々を捏ねて敬典を困らせた。
「そういや、あれからだな。俺がミサに行かなくなったの」
「そうでしたね」
「何で俺ら貰っちゃ駄目なの?」
「駄目ってことはないんですけど、信徒以外の人が貰っても意味がないって言われてますね」
「へー」
意味がないとしても一度どんなものか食べてみたかった。
今でもまだその思いは少しだけ残っている。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 19