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「はぁっ、はぁはぁっはぁ…!」
遥歩は家を飛び出して行ってしまった…おそらく虎鉄であろう男を探した。
そろそろ17時になる。
陽が落ちるのが遅いとは言え、放ってはおけない。
…どこだ…どこに行った…!
噛み付かれた腕を大きく振りながら、ひたすら走った。
広大な田圃を横切り、川の上にかかる橋を渡り、細い土の道を走る。
暫くすると、少し坂道になっている原っぱに出た。
そこは昔、よく近所の友人とダンボール滑りをして遊んだ場所だった。
遥歩は一度足を止め、膝に両手をつきながら呼吸を整える。
気が付けば、ひぐらしが鳴き始めていた。
「はぁっはぁっ、はぁっ…はぁ…っ…。」
家を出てから15分程経ったが、どこを探しても見当たらない。
一体どこへ行ってしまったのか…そう思いながら、再び身体を起こした。
…すると…。
「…………いた。」
ちょうど陽が傾いている方角に、人影があった。
草原の上で寝転んでいるその人物は…明らかに、さっきの男だった。
遥歩は少し息を呑み、ゆっくりと近づいて行く。
カサカサと、草に触れる音が鳴った。
「…。」
男は、頭の後に手を組みながら眠っていた。
風が吹き、髪が揺れる。
呼吸をするたびに、彼の胸が動く。
…どう見ても…人間、だよな。
そう思いながら寝顔を見つめていると…男は、何かの匂いを嗅ぐかのように鼻を動かした。
そしてゆっくりと瞼を開け、傍に立っていた遥歩の姿を見るなり勢いよく飛び起きた。
「!」
「あっ、ご、ごめん…。」
…もしかして…俺の匂いに気が付いたのか…?
…だとしたら…まるで犬だな。
「…何しに来た。」
男は体育座りをしながら、ふいっとそっぽを向く。
何だかその光景が、妙に子供らしかった。
「あ、えっと…その…。」
…何か、何か言わないと…。
心中でそう焦りながら、思考を巡らせる。
…が、やはり言葉は一つしか出てこなかった。
「…本当に、虎鉄…なのか?」
太陽の眩しさに耐えながら、遥歩は男の…虎鉄の背中を見つめてそう言った。
「……別に、無理しなくていい。」
「えっ?」
思わぬ返答に、遥歩は眉をひそめる。
「どうせ奈緒子がああ言ったから、そんな気がしてるだけなんだろ。」
「…っ。」
虎鉄は低い声でそう言うと、再び口を閉じた。
…正直、虎鉄の言った言葉は…少し図星だ。
けれど…今は、それだけではない。
遥歩は小さく息を吐き、虎鉄の隣に腰を下ろした。
その行動に、虎鉄は少し動揺した。
「…最初は、そうだったかもしれないけど…今は違うよ。」
「…。」
「つか、お前が俺の腕に噛み付いてきた時点で…嗚呼、やっぱりそうなのかなって思った。」
…お前は昔っから…俺の左腕に食らいつくクセみたいなのがあったからな。
「…ぶっちゃけ言うとさ?ちょっと悔しいんだよな。」
「…?」
「母さんは、お前の事を見ただけで…すぐに虎鉄だって気付いたみたいだけど…俺は駄目だった。虎鉄が人間になる訳がないっていう考えが強すぎて、信じてやれなかったんだ………ごめんな。」
「…っ。」
遥歩の謝罪に、思わず虎鉄は目を見開いた。
そしてすぐに、合っていた視線を反らす。
…正直、まだ信じ切れない部分も多々あるけど。
「……別に、気付いてもらわなくったって…構わなかった。」
「えぇー、じゃあ何で噛み付いてきたんだよ。」
「…。」
そう言われた虎鉄は、ちらりと遥歩の腕を見る。
包帯が巻かれているその腕が…怪我をしているという事は犬の虎鉄にもさすがに理解しているようだ。
「……………痛いか…?」
「え?あー…いや、平気だよ。今まで何べんお前に噛まれたと思ってたんだ?」
「そ、それはお前がっ…!!」
「えっ、何?」
突然声を荒らげた虎鉄は、その場で立ち上がった。
いきなりの事に、遥歩も驚きの表情を浮かべる。
「……な、何でもねぇよ!」
「えっ…ちょ、どこ行くの!?」
虎鉄は遥歩を置いて、そのままずんずんと坂を登り始めた。
遥歩も慌てて立ち上がる。
「…暑ぃし、帰る。」
「あ、あぁ…。」
…なんだ、また逃げ出すのかと思った。
ほっとした遥歩は、虎鉄に続いて坂を登ろうとした…その時…
「えっ…うわっ!?」
足を踏み出した瞬間、妙にぬかるんだ場所だったからか、遥歩はそのまま盛大に転んでしまった。
坂の上だったが、幸い滑り落ちる事はなかった。
「…いってぇ………げっ!最悪!!ここすげぇ土濡れてんじゃん!うわっ、ズボンにもティーシャツにも泥が!!うげえぇぇ全然気づかなかったぁ!」
「…。」
慌てふためく遥歩を、虎鉄はじとりとした目で見つめていた。
すると、遥歩は何かに気が付いたのか、虎鉄を見てはっとした。
「虎鉄!もしかしてお前も尻のとことか泥付いてるんじゃないか?」
「あ?」
そう言って今度は滑らないよう気をつけながら登り、虎鉄の身なりを確認し始めた。
「んー…あ、ほら!すっげぇズボンに付いてる。」
虎鉄の履いていたスエットパンツの裾に泥が付着している事に気が付き、遥歩はそれを手で払った。
「なっ、別に平気だろ!こんくらい!」
「いやいやこれ一応俺のだから……あ!お前髪にもちょっと付いてる。」
「っ!!」
遥歩はそう言うと、虎鉄の髪に触れようと手を伸ばした。
…その瞬間…
「い゛ぃっ!?!?ってえぇぇぇ!!!!!ちょ、ちょちょちょちょ何っ!?いたたたたたた!!!!」
あろう事か虎鉄は再び、遥歩に勢いよく噛み付いた。
しかも今度は腕では無く…右の首筋辺りに。
あまりの激痛に、遥歩はさっきの何倍もの大きさで叫んだ。
少しすると、虎鉄はようやく離れた。
「いっ…痛ぅ……な、何でまた…。」
涙目になりながらそう発した遥歩は、噛まれた首を手で抑えながら虎鉄の顔を見た。
…虎鉄の……顔を……
「………ぇ……。」
…さっきみたいに、不機嫌極まりない顔をしていると思っていた…のに…。
虎鉄は…手で口元を隠しながら…顔を真っ赤に染め上げていたのだ…。
「……こ…こて…つ…?」
遥歩はきょとんとしながらも、一歩虎鉄に近付こうとした…のだが。
「く、来んじゃねぇッ!!!あ、あと……さ…触んな馬鹿ッ!!」
「えっ!?あ、ちょっ!」
何も無いこの土地に響き渡るほどに大声を張り上げた虎鉄は、そのまま間抜け面をしていた遥歩を置いてまたしても猛スピードで走り去ってしまった。
呼び止める間も無く、虎鉄の姿が見えなくなる。
遥歩は思わず、その場でぽかんと口を開けていた。
「…なっ……なっ……。」
…なんっだ!?今の反応はっ!!
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