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「…早く助けてやれなくて本当ごめん」
ごめんなさい、と僕が謝ろうとしたのに、何故か恭哉くんが先に謝罪の言葉を口にした。
「そっ、そんな、来てくれただけで…。変なもの、みせて、ごめんなさい」
たしか、呼吸もままならないのに清水先生が僕の身体を弄り回していて、もう死んでしまうと思ったときに恭哉くんが現れたんだ。
僕は苦しかったし、清水先生も周りが見えていなかったみたいで、恭哉くんが男子トイレに入ってきたことには気付かなかった。
鍵が閉まっていたからだろうけど、恭哉くんは上から個室に入ってきたんだ。隣のトイレの便座にでも乗ったのかな。
ぎょっとした清水先生は僕を放り出して、個室から飛び出た。だけど恭哉くんが逃げ出す背中を蹴っ飛ばし、先生は小便器に突っ込んでいった。先生はそこで頭を打ったらしく、フラフラとその場にしゃがみ込んだ。
その隙に、恭哉君が僕を振り返って抱きしめてくれたんだ。そのときも、ごめんって苦しそうな顔で言わせてしまった。
恭哉君が助けに来てくれた。その安心感で、僕はその場で気を失ってしまったのだった。そこからどうなって今ここにいるのかは、全然分からない。
そういえば。
「ミチルくんと、那智くんは…?」
「…ああ。あいつらは清水を見張ってる」
…みんなに迷惑かけちゃったな。汚いもの見せて、手を煩わせて。
「あの…ほんとに、ごめんなさい。気持ちの悪いもの見せちゃって、助けてまでもらって…」
「当たり前だろ」
「そうだよっ!それに悠里は何もわるいことしてないんだから!」
「悠里が謝る必要なんか無いぞ」
みんなが優しい言葉をかけてくれる。彼らと仲良くなれて、本当に良かった。
「今日はもうゆっくり休んだ方が良い。送るから帰ろう。立てるか?おぶっていくか?」
桐谷君は、どこまでも甘い。彼は砂糖のような人だと思う。それはある意味怖いことで、いつか溶けて消えて無くなってしまうような気さえした。
「大丈夫だよ、自分で歩くから。ありがとう」
少し頭がフラフラするし、身体も重たいけど、これ以上迷惑をかけたくなくて必死に踏ん張って耐えた。
どれくらい気を失っていたのかな。外に出ると、もう空は暗くなっていた。
バレンタインのがおわったのが一時だから…あれ、今何時だ?
ひゅー、と音を立てて吹く風が冷たくて腕をさする。
…あれ、そういえば僕ワンピース着てなかったっけ?
「あの、恭哉くん、僕の服…」
「あぁ、紫乃が保健室に連れて行ったあとに着替えさせたって言ってたぞ」
「そっ、そうなんだ…!お礼言っとかなきゃ」
一瞬、もしかしたら恭哉くんに着替えをさせてしまったのかと思った。良かった、紫乃くんだったんだ…。
紫乃くんにだったら迷惑をかけていいとかじゃなくて、恭哉くんに裸を見られなくて良かった、って意味だ。
なんか、最近変に恭哉くんのこと意識しちゃうから…。
でも、あんなところ見られたら、いくら僕が恭哉くんのことを好きかもしれなくても、ダメだと思う。
元々恭哉くんと僕じゃ、何もかも違いすぎて釣り合わないのに。
余計に悪い要素が増えちゃった。
それに、僕には昔のことがあるから恋愛なんてきっとしない方がいい。もし何かが理由で、相手に昔のことがバレたら、気味悪がらせるに違いないから。
考えてもどうにもならないのに、そのことが頭を占領していた。そのあいだに、恭哉くんの運転するバイクは僕の家についていた。
「ありがとう。ごめんね、わざわざ送ってもらっちゃって。あと、色々面倒かけて」
なるべく暗くならないように、笑顔で、明るい声を務めていう。
「…無理しなくていい。明日、学校休むか?」
「や、休まないよ!心配しすぎだって、恭哉くん。僕だって男の子なんだから!」
「そうか…。でも、心配するのは当たり前だ」
そう言って、手を伸ばしかけた恭哉くんは、途中でそれを下ろして切なげな表情で笑った。
そんな顔をさせているのは間違いなく僕だ。保健室で、恭哉くんが触れるたびに僕がビクビクするから。胸が苦しくなった。
沈黙が続く。
「…ほら、もう暗いし、恭哉くんも早く帰ったほうがいいよ」
「…ああ、そうだな」
この、息苦しい空気に耐えられなくなって帰りを促すと、恭哉くんは頷いてヘルメットを被る。
「おやすみ、悠里」
「おやすみ、恭哉くん」
遠ざかっていくバイクの音ともに、僕の意識もどこか遠くへ言ってしまうようだった。
何も考えられなくなる。
さっきまでは、みんながいたから強く振る舞えた。だけど…。
やっぱり僕にとって、この出来事はそう簡単に流せるようなものじゃなかった。
部屋に入って、ドアを背に蹲る。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………」
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