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7章(1)
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リノルは自分の牧場に帰ってきた。
そしてまず馬小屋に入っていった。
もう馬は一頭も残っていなかったが、習慣でそうしたのだ。
中はひんやりして薄暗く、きれいに掃除してあった。
慣れ親しんだ、干草の香りがした。
そのとき、奥の方に何か動くものを目にして足を止めた。
低い位置に、青白い影が見えた。
彼は奥の仕切りに駆け寄った。
そこには、薄灰色の仔馬がつながれていた。
それはとくに何の変哲もない、ありふれた馬だったのかもしれない。
しかし、それを見ると説明のつかない喜びがこみあげてきた。
あたたかい懐かしさのようなものをおぼえた。
リノルは微笑み、仔馬をさわろうとして手をさしのべた。
「おまえは俺のためには帰ってこなくても、馬のためになら帰ってくると思ってたよ」
背後で低い声がした。
リノルは振り向いた。
フレディが小屋の戸口にもたれて立っていた。
「なのにおまえは、馬をぜんぶ処分して行っただろう。俺がどんなに焦ったかわかるかい。だから新しい馬を飼ったんだ。そうすればまたおまえが戻ってくるような気がして」
ふいに、やぶれかぶれの高揚がリノルをとらえた。
泣きたくなると同時に笑いたくなった。
「逢えて嬉しいよ、フレディ。でも、ぼくは待つのに値するほどの者じゃない。ぼくは……」
フレディは、リノルが漂わせている気配から、何かに気付いたに違いない。
大またに歩み寄ると、リノルの眼をのぞきこんだ。
それから腕をつかみ、引き寄せた。
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